拳鬼
一打、二打と拳をかわし、やがて距離を取る二人。
その僅かな交錯の中でゲンゾーは察し、同時に冷や汗を垂らす。
(暗器か!)
ケウデスの腕に有る手甲、その手首の位置に刃渡り10センチ程の小刀が見えた。
一打目でそれを察して掬うように腕を弾き、二打目を捌ききれず僅かに腕に痛みを感じる。
手首に有る以上拳を奮う度にその刃を警戒しなければならず、捌くにもなかなか難しい。
(加えてこの鈍痛……反応が鈍るの)
しかし冷や汗はゲンゾーのみ垂らした訳では無い。
ケウデスもだ。
(まずったな……暗器で仕留めるつもりが、一打目ですぐに見抜かれたか。全く大した奴だよ)
暗器を出したまま首元を狙えば例えすんでのところをかわしても刃が首を捉える、そう考えて繰り出した一撃を弾く形で捌かれ、苦し紛れの二打目を出して腕を僅かに斬ったのも束の間、自らの膝に痛みを感じていた。
(奴め、私が自身の腕で下に視界が映らぬ内に蹴りを放っていたか)
ゲンゾーもただやられた訳では無かった。
大抵どんな戦士でも攻撃を当てた瞬間にこそ隙が生まれる。
その一瞬に放つカウンターこそ致命的になりやすく、同時に防御にもなる。
攻撃を受けながら確実にカウンターを放つその技量に、僅かにケウデスは笑った。
(自棄っぱち、か。しかし悪くない。まるで初めて師範と手合わせした時の高揚感だ)
そして息を吸う。
「見事だな、黒檀の拳士。最早認めざるを得まい、貴様は技量に於いて私を超えていると」
「光栄だ、拳士殿」
ゲンゾーは軽口を叩き、しかし内心冷や汗を垂らす。
(この余裕……まだ隠し手が有るのか?)
その疑問に答えるかの様に、ケウデスは不敵に笑った。
「なればこそ、奥義の限りを尽くさねばな」
瞬間、宝珠の輝きが増した。
何かと目を凝らせば、手甲の上、中空に魔力が固まっていく。
「むぅ…!?」
見れば、中空に浮かぶ第二の腕が、左右に有った。
自身の腕よりふた回りも巨大なその氷の腕は、正に二対目の腕と言わんばかりに両腕と連動している。
その合計4本の腕を構え、ケウデスはどこまでも愉快そうに口の端を吊り上げた。
「さぁ、お前の全力を見せてくれ!」




