年季の習慣
ケウデスが拠点に戻るなり見たのは消えた見張りの傭兵たちだ。
ヴィラレスク委員会の一派らから放たれた見張りの傭兵たちは皆一様に消え失せており、ケウデスは気配を消して倉庫に近寄る。
(まさか……どうやってここが分かった!?)
追跡する者は全て始末した。
故にここを突き止めるには何らか別の手掛かりが無ければ不可能だ。
気配を消して隠し扉から密かに潜入すると、外にいたはずの見張りの傭兵たちが全員縛られて頭頂部にたんこぶを作って気絶している。
「安心せい、聞く事が有るでな、殺しておらぬよ」
「!」
唐突に上から声が響き、倉庫内に踊り立つ黒い影。
「お主もそうするとしようか」
「……黒檀の拳士」
ゲンゾーは不敵に笑み、ケウデスは溜息を吐く。
「どうやってここを突き止めた?」
「……ふむ、今日は手甲に足甲を付けておるのか」
疑問に答えずゲンゾーはそう惚け、
「良い靴だったのにのう。確かカンムーロ部族連合で作ってもらったとか何とか、だったかね?」
「!」
その言葉にケウデスは戦慄した。
そう、ゲンゾーは行商と共に居た時から記憶していた。
それは前世でも行っていた慣習だ。
暗殺などの依頼も受けていた為、ターゲットが変装した時になど、忘れがちな靴をまず記憶する癖だ。
それ故ケウデスの正体を昨晩の内に看破していた。
後はその隊商がどこへ向かったかをソペクネフェルらに調べてもらい、現在に至る。
「あの隊商に巨獣を乗せ、魔力精査を騙す為に敢えて襲撃させた、そんな所かね、商人殿?」
「……さて、どうかな?しかし靴か。良い教訓を得た。今後に生かさせてもらうとしよう」
そう応えてケウデスは口布を剥がした。
そこにはあの時の商人が、しかしその表情はあの時のような朗らかな物ではなく、冷徹な表情となっている。
「一応聞くがな、投降せぬか?最早御察しの通り其方は包囲されておる。儂のみならず、他に戦士もおるでな」
「……だろうな。影渡りの戦士達にこの暗所はうってつけだろう」
しかし言葉と裏腹にケウデスは闘志を溢れさせた。
その溢れる闘気にゲンゾーはやや冷や汗を垂らす。
(まずいの、矢張り承諾すべきじゃなかったの)
その懸念は自分の足元の影に。
(セレ嬢、何故ここに来ると言って聞かなんだか?)




