悪意の種
明くる朝、ネフティスの館にしてパスガノの都議が行われるホールにて机が叩かれる音がした。
その音の元、小太りの身形の良い男が卓の上座に座るセトナに叫ぶ。
「代行殿!ネフティス様の予言はどうなっておられるのですか!近頃の巨獣どもや野盗の襲撃、加えて昨晩は街の中にまで巨獣が出ている!死人も出ているのですぞ!」
そのさけび声にセトナはうっすらと瞳を開き、静かに応える。
「落ち着いて下さい、ブバスティス殿。既にソペクネフェル殿らと連携し、巨獣が如何にこのパスガノに潜入したかを解析中です」
「そのような事ではなく!この事態をネフティス様は予言なされなかったのですか!?」
「皆様の知っての通り、ネフティス様の予言は作物などの自然の成り行きによって起きる未来を見る物です。心の故意によって引き起こされる未来は予言出来ません」
セトナは答えながら内心溜め息を吐く。
(些か以上に愚かだ。貴様等もネフティス様の正確な予言によってこの穀倉地帯を形成してきただろうに。人の心の移ろいやすさよ)
この議場にネフティスを呼ばない事も含め、セトナにとってこれほど堕落した為政者達は耐え難い存在だった。
議場の中、有権者達はどよめきながらセトナを見つめ、ネフティスの代行であるその意の揚げ足取りに近い発言を繰り返す。
(そうまでして心を読まれるを恐れ、私越にネフティス様を詰るか。やましい事がそもそも無ければ杞憂だろうに)
明らかに扇動されている者やただ純粋に不安に憂いている者達を見極め、頃合いかとセトナは腕を組む。
「……加えて、これは口外無用ですが、次期当主のセレ様がお忍びでこのパスガノにいらしております」
「何と!」
「セレ様が……」
再びどよめく議場の中、ブバスティスが口を開く。
「昨夜の騒動には!?」
「不明です。現在我々も捜索中ですが、何分お忍びな為に」
その言葉に内心ブバスティスは表情を渋る。
(つまりあの赤枝とやらが未だセレを保護したままなのか?いや、ネフティスが黙って保護している可能性も有る。しかし……)
と、ブバスティスに一つの案が浮かんだ。
(いや、どちらにせよあの赤枝のガキは使える。一先ず赤枝と精霊殿の連中にセレを差し出さねばガキを殺すと脅そう。さすればセレを差し出すか、そうでなくともセレを保護したであろうあの託宣の拳士の元に必ず向かうはず。そこをケウデスとガロンに襲わせれば……!)
その策を巡らせるブバスティスを横目にセトナはふむと唸り、瞳を閉じた。
(種は蒔いた。後は黒檀の拳士殿に任せよう)




