信じる者、縋る者
その頃の宿屋は大変の一言に尽きた。
路上にてエレンの治癒を受け、目覚めたエリルとアリーヤは事のあらましを聞き、アリーヤは歯噛みをする。
「ちっ、騙眩かすたぁ舐めやがって……!おかげでとんだマヌケ晒しじゃねぇか!」
一方でエリルは真剣な眼差しでエレンを見遣る。
「確かにゲンゾーがまだ追ってるんだな?」
「うん」
そして見上げるはリリア。
耳を澄ませて何かを探し、やがて首を振る。
「ダメです、黒檀様もセレちゃんもチコちゃんも、気配が掴めないですよぅ」
「もう遠くに逃げられちまったみたいだね」
エーリカは苦虫を噛み潰したような表情で呟き、グレタは顔を暗く落とす。
「……済まない、私の責任だ」
「もうよしなグレタ。あの拳士、相当な手練れだったんだ」
「しかしっ……!」
「さぁて、明日に備えて休もうぜ」
そんな暗いムードの中、あっけらかんとエリルは告げ、一同は唖然としてエレンが憤慨気味に話す。
「ちょっと!あんたセレは知り合って間も無いからともかくかもだけどさ、ゲンゾーやチコはどうでも良いの!?」
「どうでも良い訳ねぇだろ。あの二人は家族も同然だ」
しかしきっぱりとエリルはそう応えた。
「俺はバカだからよ、ゲンゾーを信じて待つ。あいつが待てって言ったんだ。だったら事が起きた時に備えて俺は万全の状態で、ゲンゾーの指示通り動ける様にしとく。今更俺一人ジタバタしても変わらねえ」
そして振り返って一同を見た。
「賭けても良い、ゲンゾーは必ず皆を守って帰って来る。あいつはそういう奴だ」
信じて待つ。
この中の誰より長い間共に危難を乗り越えたからこその全幅の信頼だ。
静まり返る一同の中、アリーヤが鼻を鳴らして口を開いた。
「随分お気楽な仲なんだな、お前ら」
「気楽なのは俺だけさ。そういうあんたはどうなんだ?」
「冗談。金にならないなら消えるさ」
そして同じく立ち上がる。
「つまり、魔法使い様お抱えになれば金に困らない、だったら乗っかるぜ」
「へっ、阿漕な女だぜ」
そして宿屋に戻ろうと歩み始める。
「っ!下がって皆さん!」
その時だった。
エーラの叫び声が響き渡り、一同振り返る。
「なっ……!?」
見れば伏したはずのグリンブルステインが身を起こし、血を吐きながらもギラギラした瞳を開いた。
その瞳は叫び声を上げたエーラを捉え、一線に駆けてくる。
「ちぃ!」
「させるか!」
アリーヤとエリルが庇うように行く手を遮るが、グリンブルステインの牙に絡め取られるように諸共捕らえられ、
「いっ!?」
「ふわ……!」
そのまま夜空に飛び上がって行った。
牙に絡め取られ、必死に空中で落ちまいとしがみ付くエリルと忌々しげに槍を剥がそうともがくアリーヤ。
「んのっ……!くたばりぞこない……がっ!」
「たっ、高ぇ!おっ!おっ!おっ!落ちっ!」
『皆さぁん!エーラちゃん!』
「わっ……私達は大丈夫です!」
リリアの念話に全員怪我が無いと悟り、同時にエーラは訝しむ。
(どうして?偶然……なんて言い訳は……)
『もし、お嬢さん?』
「!」
唐突に響いた声は、目の前のグリンブルステインから発せらたものだった。
『私の子を、助けてください』




