誘拐
鼻先に突き付けた刃をそのままにグレタはガロンを睨む。
「さて、我らの内幾人か攫うと言った上に『あの畜生』と言っていたな。さてはあの巨獣を差し向けたのは貴様か?」
「知…知らねえ……あぎっ!?」
とぼけた瞬間小さな電撃が走り、ガロンの瞼を焼く。
「済まないな、よく聞こえなかった。もう一度言ってみろ」
「じゃあでけぇ声で言ってやるよ………クソ食って死ね阿婆擦れが!」
罵りに再び電撃を放ち、やがてエーリカが前に出て息を切らせるガロンの髪の毛を掴んで背を反らせた。
「言うねぇ兄さん。けどね、あたしらはともかくあの巨獣が来たせいで衛兵隊は幾人か死人が出てるのさ。あんたが煙たいって知られたら連中は黙っちゃいないよ。衛兵隊に突き出されて私刑紛いに殺されるか、素直にゲロって見逃されるか、選びな」
「っ………!」
息を呑んで震えるガロン。
冷たい視線の二人を見遣り、しかして矜恃が許さないのか、葛藤しながら唇を噛む。
しかし恐怖が勝ったのか、震えた声を絞り出す。
「そこまでだ」
その瞬間だった。
口布を掛けた男が気配すら感じさせず現れ、
「っ……!?」
「なっ…!」
グレタとエーリカの脚を払い、胴に足刀を放って吹き飛ばした。
その闖入者にガロンは一瞬呆け、やがて哄笑する。
「おっ、遅いんだよこの役立たず!お前どこで油売ってたんだよ!」
「言ったろう、上に報告すると」
そしてその言葉にガロンは凍り付いた。
「クライアントがお待ちだ。さっさと帰るぞ」
静かに戦慄するガロンにまるで無人の如く振舞う口布の男。
しかしその言葉にグレタは身を起こして構える。
「行かせると思っ!?」
その言葉の途上、目にも止まらぬ速さで拳を胴に叩き込まれ、グレタは口布の男の前で膝を屈する。
「きっ……さまっ……!」
そんなグレタさえ見向きもせずに男は背を向けて去ろうとした。
が、グレタが屈したのを見てガロンは引きつりながら笑う。
「はっ……ははっ!ざまぁないね!最初からそうやって大人しくしてりゃ良かったんだ!」
「早く行くぞ。黒檀の拳士が戻って来る」
「いいや、まだだ!」
そしてギロリとエレンらを睨んだ。
「こいつら精霊殿の連中だろ!?攫えばベリナスの旦那もいよいよ俺をタリオスの信徒って認めてくれるさ!」
「ベリナス……タリオス!?」
二つの言葉に一同は凍りつき、口布の男はやれやれと首を振る。
「そんな依頼は無い」
「うるせぇ!お前ら番犬どもには無くても俺には有るんだよ!誰でも良いから攫え!」
「やれやれ」
言うと口布の男は搔き消え、
「あっ……」
「セレ!?」
セレを素早く締めて落とし、肩に抱えた。
「お前もさっさとしろ」
「チッ、分かってんだよ!」
そしてギラギラした瞳を向けるガロン。
その前にチコが震えながらも立つ。
「させません!兄さまの為にも!」
「じゃあお前だなぁ!」
乱雑に電撃を放ち、部屋が吹き飛ぶ。
そして壁に盛大に打ち付けたチコはそのまま気を失った。
「チコちゃん!黒檀さまぁ!」
と、リリアが叫んだと同時、口布の男はわずかに舌打ちをした。
「いかんな、黒檀の拳士が来る。行くぞ」
「指図すんじゃねぇ!分かってるんだよ!」
そのまま二人して壁から街の中に消えて行った。




