金の鬣
「!」
いち早く察したのはエリルだ。
全身を強張らせ、耳を高く立てて外を睨む。
「どうしたエリル?」
「…………なんだこの鳴き声?」
ゲンゾーの言葉にそう応え、更に気配を読む為に瞳を閉じて耳を澄まし、そしてゲンゾーに振り返る。
「何かやべぇのが近付いて来てる!でけぇ気配だ!衛兵隊と戦ってる!」
「何?」
と、ゲンゾーはジョッキを置き、アリーヤは槍を取る。
「誰だか知らねーが衛兵隊に恩売って儲けるチャンスだな」
「阿漕な話だ。しかし降りかかる火の粉は払わねばな」
チコを残して宿屋から飛び出す三人。
暗い街路に面した表通りの奥より悲鳴が響く。
「来るぞ!」
瞬間、建物を突き破り衛兵隊の骸を牙に刺した巨大な猪が現れた。
その肌は金色に輝く金属の様な物で、衛兵隊との戦いを経ても尚傷一つ無い。
まるで機械仕掛けの猪という様なその巨獣はゲンゾーらに向かって迫って来る。
「何だあれは!?」
「グリンブルステインだ!かわせ!」
アリーヤの言葉に三人は散らばり、グリンブルステインという猪の巨獣をかわす。
そしてそのまま突っ切って逃げようかと考えたが、グリンブルステインは立ち止まり、ゲンゾーを睨む。
(儂を狙うのか?)
何故か狙われた事に訝しみ、しかし拳を構える。
「うげ……また幻獣種かよ。もうお腹いっぱいだぜ」
「ちっ…恩を売る前に神様に媚び売らなきゃだな」
エリルとアリーヤもまた逃げる気は無いのか、エリルは魔導の為に距離を測り、アリーヤは槍を低く構える。
三人居れば何とかなるか、そう思案するが今一しっくり来ない。
(朝からの襲撃にこのグリンブルステインなる巨獣の襲撃。『奴』め、儂をここに遣って何を企んでおるのか……)
内心何者かに毒吐き、前脚をならして今にも迫ろうとするグリンブルステインを睨む。
先の戦闘でこういった巨獣に対抗するのは難しいと分かっている。
属性魔導を使って戦おうにも致命傷にはなるか分からない上、とり逃せば別の場所に被害が広がるだけだ。
加えて自身の魔力は人並み以下、一度使えばしばらくは使えないだろう。
そして徒手のエリルと実力が測れないアリーヤ。
(いかんな、八方ふさがりやも知れぬ)
放つなら一撃で確実に倒せる時にのみ魔導を放つべきだろう、そう決心し、向かうグリンブルステインを前に、
「来るぞ!」
巨獣よりも早く身を爆ぜさせていた。




