タリオスの瞳
「手間をかけさせおって…!小僧、下がっておれ!」
蹴り飛ばした槍の戦士に言い放ち、牽制とばかりにゲンゾーはアレッサドリに足刀を放つ。
アレッサドリの身に纏った鎧には傷一つさえ付かないがアレッサドリはそれに押され、少し間合いを取った。
(ほう、私の鷹眼を以ってしても完全な回避は無理か。技術のみは既に達しつつあるな)
「だが!」
再び空に飛び上がるアレッサドリ。
その肩の巨大な装甲から溢れんばかりの光が推力を与えているのか、初動からは想像出来ない素早さだった。
「手並みを見せてもらおうか……!」
そのまま狙いをゲンゾーに移し、魔力の光を放つ。
しかしゲンゾーはその柱の間隙を縫う様に駆け巡り、アレッサドリは驚嘆する。
「これを躱すか!むっ!?」
そして視界の端に捉えるは街道の街路樹を引っこ抜いてそれを投擲に構えていたエリル。
気付かれた事に舌打ちしながらもエリルはそれを放ち、しかしアレッサドリはすぐさま反応する。
「虚仮威しが!私にかかるな!」
より巨大な魔光によってアレッサドリに達する前に搔き消え、しかしその一瞬にエリルも搔き消える。
「むっ!」
見ればゲンゾーの前に腰を落として構えており、ゲンゾーはエリルに向かってかけている。
何かと思う間も無く、
「行くぜゲンゾー!」
「応!」
エリルはゲンゾーの脚を掬う様に弾き、その膂力でアレッサドリのいる空中に飛び上がらせた。
(私のいる空に飛び上がるか!だが愚かだ!)
奇手にも飛び上がったゲンゾーは肘を構えており、大概の戦士ならばそれに反応さえ出来なかったろう。
しかし鷹眼を極限まで鍛えたアレッサドリはそれを確かに捉え、魔光を放つ。
が、
「!?」
魔光はゲンゾーに当たるなり搔き消え、寧ろその魔光が目眩しとなりゲンゾーの接近を許す。
「くっ……!」
すんでのところでかわし、ゲンゾーはそのまま街路樹に降り立って歯噛みをする。
(あの反応速度、凄まじく目が良い敵だの!)
唯一の奇策も見切られ、同時にアレッサドリも冷や汗を垂らす。
(眉唾と思っていたが、矢張りそうだ、あれこそが『黒檀の拳士』。私の魔光を完全無効とは…!)
「しかしそれだけではなぁ!」
再び魔砲を構え、しかしそこから放たれるのは光ではなく鎧の礫。
再生する鎧装なのか、鎧装そのものを礫にし、弾丸の様に放つ。
「ちぃ!」
街路樹から手を放して躱せば機関銃の斉射を受けた様に千切れ飛ぶ街路樹。
加え、背中から再び大き目の礫を、しかし魔力によって誘導式の魔弾を放ち、地に刺さると同時に炸裂させ更にゲンゾーを追い込む。
(まるで攻撃ヘリよな!)
機動力、制圧力、脅威のそれは正に前世の機動兵器そのものであり、対処法が見出せないのに歯を噛む。
「!」
しかしその途上、アレッサドリは何かを視界に捉え、徐に手を止める。
「………矢張り来たか。分からん話ではないが、どうにもヴィラレスク委員会は運が悪い」
僅かに笑うとそう言い残し、魔力の奔流を放ちながら飛び去って行った。
「逃げる!?いや、見逃されたのか……」
圧倒的に不利な状況から何とか窮地を脱したと肩の力を抜くゲンゾーは、隊商がまだ無事な事を見届け、
『黒檀さまぁ!』
「!」
唐突に頭に響いた声に驚嘆する。
『私です、リリアですぅ!今念話を送ってますよぅ!』
「………何かね、お主こんな特技があったのか」
『はい、リリアは兎の獣人族でも一番耳が良いからこんな事も出来るんですよぅ』
「……しかも儂の声も聞けるのだな。して、何かね?」
『はぅ、そうでした!すぐ戻って来て下さい!』
と、慌てた口調でリリアは応える。
『怖いスフィンクスさんが来てるんですよぅ!助けて下さい!』




