かつての気配、新たな敵
「エリル、来い!」
「おう!」
幌馬車から飛び跳ねる様にゲンゾーとエリルは飛び出し、
「チコ、結界を張れ!」
「分かりました!」
チコにそう言い残して駆け抜ける。
隊商後方、最後尾では馬車もろとも荷物、そして護衛らしき戦士達が完全に破壊されていた。
爆発が起きたのか、小さなクレーターが点在するその中、
「!」
空中に浮かぶ人影を見遣り、ゲンゾーは全身の毛が逆立つのを感じた。
(いかん…アレは相当に危険な存在だ!)
ザグラスとは比べ物にならない気配、魔力、そして存在感。
(まるで…あの時の魔拳士の様では無いか!)
かつて自分から全てを奪った男の気配を感じつつ警戒していると中空の男、アレッサドリもゲンゾーに気付く。
(あれは……そうか、既に動いておるか)
半ば諦めたかの様に、しかし同時に好機でもあると言うように笑う。
「野郎!」
と、護衛の戦士達の生き残りらしき二人がアレッサドリに向かってかかっていく。
「ま、待て!やべぇぞあいつ!」
残された槍を持った戦士を置き、二人掛かりでアレッサドリにかかる。
が、
「ふん」
アレッサドリが鼻で笑うと同時、掌から放たれた魔光によって体を貫かれ、悲鳴も上げず崩れ落ちた。
「アイン!ブラー!」
二人の戦士が一蹴に伏されたのを見て最後の護衛と思しき戦士もまたかかろうとする。
が、
「戯け、よさぬか!」
ゲンゾーの叫びに動きを止め、高速で空中に飛び上がったアレッサドリはゲンゾーを睨む。
(見切りに関しては達人に迫りつつあるようだが………いかんせん私との相性は壊滅的だな)
そう、壊滅的にゲンゾーが不利だ。
拳士として闘うゲンゾーにとって空を舞い遠距離からの攻撃を行う敵は対処法が無い。
敵が油断して降りて来るのを待つしか無いのだ。
「なめんな!」
「むっ!?」
しかしそれを否定するかの様に残された槍の戦士が槍を地に刺す。
するとアレッサドリの体がいきなり押さえつけられたかの様に揺らぐ。
(音を使って私の三半規管を狂わせ、落とす腹積もりか)
くっと体勢を整え、高度を下げて対応するアレッサドリ。
「バカが!これでちょろちょろ出来ねぇだろ!」
「待て!迂闊だぞ!」
ゲンゾーの叫びも無視してアレッサドリに躍り掛かる槍の戦士。
しかしそこ槍が届く手前、
「!?」
アレッサドリはどこからととなく現れた鎧に身を包んだ。
肩から生えた巨大な装甲からは魔力の奔流が可視化する程流れており、横引きされた兜の目は舌なめずりの様に光点を左右に揺らし、その純白の姿からは想像出来ない様な殺意を醸し出している。
「愚かな…果てろ!」
その手は既に手ではなく、魔力を放つ砲の形状をしていた。
そこから放たれる魔光は、
「むっ!?」
驚嘆に身を固めた槍の戦士をゲンゾーが蹴り飛ばした事により、遥か彼方へと飛んで行った。




