パスガノへの道
矢張り早起きは得をするのだった。
手早く朝食を済ませていたゲンゾーは昼前出立の隊商に乗り込む事が出来、どうやら素早く動けば夕刻にはトラジオンに帰れるらしい。
(無論、儂一人ならばな)
揺れる幌馬車の中、ちらりと一瞥するは馬車内の面々。
「お出かけお出かけ〜♪」
「アノーラ、身を乗り出したら危ないってば」
「んふふぅ、美味しい御飯が待ってますよう」
そう、何故か引っ付いて来た。
護衛という性質上、護衛対象が多い分矢張り仕事が増える。
エーリカ特製幌馬車から身を乗り出して隊商の列を眺めるアノーラをひょいと戻してやり、精霊殿面々を見渡す。
「…………何よ」
エレティーナと目が合う。
何かと出掛ける癖の有る彼女は皆が行くならとくっ付いて来たのだったが、朝の件も有ってか非常にご機嫌斜め45°な顔である。
「いや、朝は済まなんだ。弁解の余地は無いが謝罪はさせてくれんかね」
「……気にして無い」
(嘘こけ)
どう見ても気にしてるな顔のエレティーナから目を放し、フォローはどうするか考える。
と、そこにチコが隣に座って来た。
「兄さま、如何なさいました?」
「いや、一杯ヤリイカと考えておってな……」
「言いにくい事ですのね」
と、いつもの合図で応えると納得してくれた様でチコは頷き、そして反対側にエリルが座る。
「ま、チコはともかく俺とゲンゾーは肩身の狭い思いなのさ。そもそも男子禁制の場所に俺たちが来るなんて無茶な話だ」
「しかしその割には余り領主殿か或いはそれに準ずる者が物申して来る事が無いの」
「さぁ?俺たち赤枝が馬の骨過ぎて無害って思われてんじゃねぇの?」
ふむと唸り、御者の位置にいるエーリカとグレタを見遣る。
「なんだい、まだ本調子じゃないんだから寝てりゃ良かったのにさ」
「言うなエーリカ。エレティーナ様が行かれるならば私も行かねばならん」
「固いねぇ」
益体も無く話している。
文句か諫言を言って来るならばこの二人の内どちらかかと睨んでいたがどちらも何も言って来ない。
むしろ敢えて野放しにしている風にさえ感じる。
(はて、『黒檀の拳士』とやらはそも一体何かね)
自分の風聞に余り関心の無い前世での癖か、さんざ言われる自身の二つ名に漸く関心が向く。
その時だった。
「っ!」
今まで静かにしていたセレがいきなり額を押さえ、やがて恐慌に目を見開く。
「……どうして?……こんなの…今来たら…!」
がたがた震えるセレに異常を感じたゲンゾーはセレに寄る。
「どうしたのかね?」
「………隊商の後ろから、怖いのが来ます!」
そう言ったのと隊商の後方から巨大な砂塵が舞い上がったのは同時だった。




