守りし者
漆黒の髪に徒手の戦士は、マガフの触手を手刀で裂いてグレタを抱き、見知らぬ赤毛の獣人族の青年は力任せにエーリカを触手から引き剥がして地に立った。
「このブチ込んだ間抜けに事情聞こうって探したら…まさか衛兵隊全滅たぁな、嫌な直感ばかり当てやがるな、ゲンゾー」
「全くだ。下らん手間を増やさせおって」
と、惚けるグレタとエーリカを放してやると二人はザグラスとマガフに向き合う。
「覚悟は出来てような、蟲使い」
「………」
ザグラスは何も言わずに離れ、マガフが前に出る。
「そら、汚名返上の機会をやろうぞエリル」
「言うと思った…ぜっ!」
と、エリルは手頃な柱をへし折り、武器として猛然とマガフに向かっていった。
そしてゲンゾーはへたり込むエレティーナの目線に合わせて話す。
「先の話はな、儂は正直まだ決め兼ねてなんだ。其方から幾らか聞きたい事が有る故、その後決めよう」
「………」
言うと決めたのに、いざ目の当たりにすれば上手く言葉が出ない。
と、逡巡の間にゲンゾーは立ち上がり、ザグラスと向き合う。
「半日振りだの、蟲使い。もう全快したかね?まだ痛むだの、言い訳ならば今聞くから後で言ってくれるなよ」
「………何故邪魔をする、黒壇の」
「異な事を言う。無作法な行いは窘めて然るべきであろう?」
「違う、そうではない」
と、ザグラスはかぶりを振り、続ける。
「貴様は私の仲間にはならずとも、バルミアの味方にもなり得まい?貴様はこの国が、もっと言わばそこの魔法使いめの先代が貴様の母、カエデにした仕打ちを知らぬのか?」
「………何?」
「っ!」
その言葉に、エレティーナは苦虫を噛み潰したような表情を作る。
「貴様の母、カエデは本来ここの主人たる者だったのだよ」
精霊殿の中、ザグラスは告げ、ゲンゾーは動じない。
「だが先代がそれをよく思わなかったのか、カエデが務めに消極的、更に異国の者であると言った理由で独り身に追い出したのよ。遠い異国の中な」
故郷から遠く離れて呼ばれたのに、妬み僻まれ、挙げ句の果てに何の後援も無く追い出した、そう告げたのだった。
そしてその原因はそこの娘の先代とも。
エレティーナに目を向け、ゲンゾーは静かに言う。
「本当かね」
「………ごめ………なさい……ちゃんと……言おうって……」
搾り出すかの様に紡がれる言葉。
懺悔の意味か、崩れた表情で涙だけを必死に堪えている。
表情を落としたゲンゾーにザグラスは続ける。
「そこをどけ小僧。無為な争いは私も本意ではない。協力しろとまでは言わん、何も言わずにあの獣人族と共に去れ」
その言葉にゲンゾーは、
「そうか」
「!」
と、掌打を繰り出した。
すんでの所でかわしたザグラスは、安堵の笑みを浮かべるゲンゾーを見て目を見開く。
「貴様、聞いていなかったのか!?」
「聞いていたとも。そして礼を言おう、長年の謎が氷解したとな」
力強く構え、惚けるエレティーナを背にゲンゾーは不敵に笑む。
「あの男、デビオスは魔法使いたる我が母を狙いガルガダス事変を起こし、国力低下を図ったのか。そして儂の母は不幸の内に荒野に送られたと?笑止千万!」
そう、ベレソアと共にいた彼女は、いつも笑ったり怒ったり、感情をコロコロ変える程に豊かな心を持っていた。
幸せだった。
(大方、父上と共に駆け落ちなさったのだろうな)
そしてその憎まれ役として、エレティーナの先代が名乗りを上げた、と。
そう、かつての自分と同じくカエデは、
(穏やかな午睡を良しとしたのだな)
栄光も無く、ありふれた、されど掛け替えの無い日常を選んだと。
「迷いは晴れた、ここに敢えて名乗ろうか」
力強く構えたまま眼光に力を込める。
「儂の名はゲンゾー!義賊『赤枝』の長!守りし者を志す者よ!」




