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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第一章・身体が資本なじいちゃん
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神棚の物とじいちゃん

初投稿な上に不定期なド素人です。

おまけに真性ドMなんで改めるべき所、治すべき点等はどうかお気軽かつ罵倒込みでご教示お願いします。

日本、某所。

その広い邸宅には一人の老人が住んでいた。

名を曽根山源蔵。

かつては自衛隊員として在り、教導隊にまで登ったがやがてPMCに入り、あらゆる戦場を見て来た彼は既に齢87に成る。

しかしその肉体は未だ衰えておらず、まだ五十代と言われても半ば納得してしまう体躯だ。


「しかしもうそろそろかね」


朝の日課たる走り込みと立木打ちを終え、縁側に腰掛けて渋茶をすすりながら源蔵はポツリと漏らした。

日課を辛いと感じた事は無い。

それは体に長年染み付いた習慣だからだ。

大抵の人は食事を苦に思う事は無く、源蔵にとってのそれは食事などに等しく生活に繋がっている。

が、やはり体に無理が来たのか、幾らかの痺れが手を襲っている。


(筋肉痛…ではなかろう。既に衰える事は有っても育つ筋肉など有るまいに)


筋肉痛とは即ち破壊の後のより強固な再生、新たな筋肉を作る身体の痛みだ。

だがこの歳になってまで成るものではない、そう源蔵は思い、やれやれと首を振る。


(さていよいよ儂も大人しく隠居らしく生きる頃合いかね。ま、生きると云うよりかは死に損ない続ける、と云ったところか)


既に定年退職はしているし、家族も居ない天涯孤独の身。

寂しくなかったなどと強がりはしないが、それでも総括すれば良い人生だった、そう彼は納得している。


「さて、歳はとりたくは無いが飯は取らねばな」


かぶりを振って立ち上がり、朝飯の支度に向かう源蔵。

生活全般は熟せる身体だけは残すかなどと考えながら簡単に朝飯を作り、神棚の水を替えてちゃぶ台に付く。


「いただきます」


静かに、されど通る声で言い、食事を取る源蔵。

別段神を信じる訳では無いが、彼はそういった『文化の中の当たり前』を当たり前の如く行っていた。

人を金の為に殺した事も当然有る彼は善人とは呼べなくとも良識人ではあった。


『そこは未だに守るのですね』


だから、なのだろうか、突如声が頭に響いた。


「うむ?」


口に運ぼうとした卵焼きを置き、源蔵は当たりの気配を探る。

が、誰も居ない。


『ここですよ、曽根山源蔵』


代わりに神棚に纏めてあった年越しなどの祝い事に使う蝋燭が一人でに動き、火を灯した。

その不可思議な現象に源蔵は目を見張り、だが同時に訝しげに箸を置く。


「…さて、これは驚いたが果たして神か魔か、こう云うべきかね」

『あら、手品か何かと?』


瞬間、時が止まった。


「!?」


意識が覚醒しているからそれを知覚出来たが、庭にいた雀達が動きを止め、身体も全く動かない事に心底驚く。

加えて神棚の火だけはゆらゆら揺らめいている事に更に肝を冷やす源蔵。


『これで信じてもらえましたか?』

「…!」


言葉を出そうにも口さえ動かない。

やがて時は戻り、しかし源蔵は未だ時が止まったかのように戦慄の余り硬直したままだ。


「………やれやれ。老人をそう驚かさんでくれ。今ので少ない儂の寿命が更に減ったぞ」

『ごめんなさいね。手っ取り早く信じてもらいたかったから』


冷や汗を抑えながら源蔵は溜息を吐き、落ち着かせる為か茶を含む。


「して、神棚の、儂に何ぞ用事か?手洗いなら廊下を出て真っ直ぐ、風呂場はその更に奥だぞ」

『まぁそうつっけんどんにしないで下さいな。貴方に伝えると共にお願いに来たのです』

「む?」


妙な事を言うと訝しむ中、しばしの逡巡の後神棚の物は告げる。


『貴方はもう生きて明日を迎えません』


その言葉の意味に源蔵は少し間を置いて気付き、


「そうか」


そう言って寂しく微笑んだ。

時をも止める何者かの宣告に加え、自身への信憑性、それがあっさりとその言葉を事実と受け取れた。


『恐ろしくは無いのですか?』

「いや、恐ろしい。恐ろしいが、よく生きたからな、まあ多少の悔いは在ろうが文句を云う程もない」


それだけの事よ、と続けて卵焼きを口に運ぶ。

一口一口、噛みしめるように。


『…貴方は有りの侭を受け入れるのですね』

「自身が生き辛く成るような事はせん。儂は儂の人生をそれなりに、納得する形で生きられた」


こういった生き方が如何に恵まれた生き方か、それは紛争地帯を練り歩いた彼だから知っている。

穏やかな午睡を迎えられる事。

孤独ではあってもその午睡が尊い彼には納得出来る死に方だ。


「ま、目標も無く生きていた十余年が少々要らなんだか。主も早々儂の命を取りに来れば良かったろうに」

『…貴方は生きる上で目標が欲しいと?』


朝食を摂り終え、茶を飲みながら源蔵はそれに首肯する。


「目標無き人生程無為な物は有るまい。人は座して待つ事は出来れど座して死ぬよう生まれてはおらん。何ぞ目標も無く生きるは即ち苦痛しかなかろう。目標は即ち生きる上での喜びよ」

『では新たに私がその目標を与える、と言ったら?』

「む?」


意外な言葉に源蔵は少し訝しみ、神棚の物は続ける。


『在る世界に守り手を必要としている者が居ます。かの者は光の命運を担う者。しかし如何な運命もその者を守り通せ無く、失われる未来のみ』


ならば、と。


『異なる世界より異なる運命と絡ませれば或いは、そう結論に至りました』

「それで儂にと?」


ええ、と肯定され、源蔵は渋った表情を作る。


「仮に儂が良しとしてもだ、神棚の、こんな老いぼれが行った所で意味は無かろう。もっと頼りになりそうな者をだな」

『転生させますから肉体年齢はお気に為さらず』

「…ならば本末顛倒であろうが。差し詰め儂の戦闘経験を買って儂にと来たのだろうが」

『記憶はそのままにして差し上げます』

「………儂は和料理の味が」

『心配ご無用、和料理が在る世界です』

「………」

『醤油も有ります』

「まだ何も云うておらん」


はぁと源蔵は溜息を吐き、頭を抱える。


「大体何故儂なのかね。戦闘経験ならば儂でなくとも居ようし、信仰なぞ儂には無い。儂が其方である神棚を雑に扱わなんだは偏に『無理なく可能ならそうすべき』という良識による物であって…」

『そこです、曽根山源蔵』


と、神棚の物は応える。


『貴方程の戦闘経験が在る方でそこまでの良識人はそうそういません。良識在る人間が世界の命運を担う、そういった結末が欲しいのです』


その言葉に、どれほどの意味が在るのか、ただ尋常ならざる気配に源蔵は腕を組み、暫し考えた後口を開く。


「そもさん、世界の選択とやらは世界を構成する人間乃至知性在る者共の選択した物だが、そうまでして選択を変えようとする意味は?」

『敢えて言わば…『救い』です』


その幸せな結末が、多くの心在る者達への救いであるよう、そう願っているからこその決断。

そう受け取り、何も言わず源蔵は立ち上がって縁側に立つ。


「………その世界に銃器は在るかね?」

『有りません。魔法は有ります』

「眉唾な物を出しおって………」


溜息一つ、そして、


「条件が一つ、徒手にて闘うつもり故その為の肉体作りの容易い場所に頼む」


かくしてその翌日、曽根山源蔵はひっそりと老衰でその87の生涯を終え、新たな旅に向かった。

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