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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第三章・トラジオンのカリギュラ
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魔導特訓

翌朝、倦怠感の残るその身体のまま向かったのはエレンが儀式に使う間だ。

広い空間の中心に水を張った大きな盃が有り、その上に巨大な光球が浮かんでいる。

エレンは暫くその光球に手をかざし、くるりとゲンゾーに向かう。


「まず確認だけど、あんたは魔導がどういう原理で放たれてるか分かる?」

「ふむ、丹田に力を込めて後は気合いと根性だろう」

「うん、全然分かってないのは分かったわ」


どうやら違うらしい。

エレンはばっさりとエリル直伝の魔導を切り捨て、手の平を開く。

瞬間、小さな光がエレンの手の上で舞った。


「まず、魔導っていうのは自分の魔力とそれと同じ性質の精霊達によって為される技なの」


その光はよく見るとうっすらと小さな羽が有り、物語に聞いた精霊そのものにエレンの周囲を巡る。


「精霊は十元素の魔導を宿してあらゆる場所に大小問わずいるわ。この元素精霊の様な小さな物から国一つ覆える程の大きな物まで」

「…………十元素、と言うたが、儂の属性に当てはまる物はおるのかね」

「そこが大事なの」


と、手の平を握ると精霊達が見えなくなる。


「結論から言うと無いわ。特異属性は元素精霊からの力を借りれないの」

「…………もしかするとそれ故に特異属性とは元来魔力量がずば抜けて高い存在ばかりだったのではないかね?」

「あんたの出現でそれも必ずしもそうじゃないってなったワケよ」


思った疑問を口にして漸く理解する。

早い話大吹雪の中で湯を沸かそうとしていた様な物だ。

理論上あらゆる手段を用いれば湯は沸かせるだろう。

だが普通の風も無く乾いた場所で沸かす方が無駄が無いし何より余計なエネルギーを必要としない。

魔導を使う者たちが元来必要としない量の魔力を必ず求められる。

それ故に、ゲンゾーがその考えに至った。

本来特異属性は魔力量も特異なはずだと。


「けどあんたのは控え目に言ってもポンコツ。エリルみたいに力技で元素精霊とのバランスを考えず魔導なんか使えばそりゃ倒れるわよ」


心底呆れたと言う様な表情のエレンとふぅむと唸るゲンゾー。

しかしゲンゾーにとって、だから魔導は使いませんでは困るのだ。


「魔導をこれからも使用する事を前提に、対策は有るのかね?」

「二つ有るわ」


エレンが見せるのは竜胆のごはん、即ち宝石。


「一つはマジックジェムを作る。宝石に自身の魔力を無理の無い時に宿しておいていざという時にぶん投げる。そしたら意識した対象に当たった時、魔導と同じ効果を発揮するわ。簡単な符呪魔導ね」

「宝石はどうなるのかね?」

「勿論おじゃんよ」

「うむ、却下だな」


冗談ではないと思った。

流石に宝石を使い捨てでぽんぽん投げて破産しましたなどと言う程人生までも投げていないのだ。

エレンはそう言うと思ったわ、と応えて続ける。


「二つ目は魔導の効率化ね。大きな面で魔導を放たず、小さな点で魔導を放つ。火や水とかの大雑把な魔導でも、この一点集中で威力が絶大に上がった例も有るわ」

「無駄無く急所を狙う、か」


ゲンゾー自身こちらの方が性に合う。

見た目が派手なだけの無駄な攻撃よりも、効率化した一点火力による攻撃の方が連戦し易いのだ。


(まぁ人の身体など、箸の一つを鼻か目、耳に差し込めば死ぬる程に脆い。趣味悪く身体を散らす意味など無かろう)


ふむと唸り、そして当初の目的を口にする。


「効率化も良いがな、そも魔力量を増やすにはどうすれば良いのかね?」

「そこが効率化の手段と一致するの」


と、エレンは再び手の平を開く。

するとそこに小さな光球が現れた。


「魔力量は魔力の空きに伴って補強されるの。簡単に言えば筋肉を鍛えるのと同じで酷使すればする程、より多くの魔力量に代わるわ。ただそこもまた人の身体と同じで増える量も人によりけりね」

「儂の魔力量では増えたとしても微々たる物と?」

「やらないよりかは確実に増えるわ。ただあんたの場合その鍛練の最中に倒れそうなの」


そこで、と、更に光球が小さくなる。


「まずは簡単な魔力球の作り方を覚えて手の平で転がしなさい。消しちゃダメ、意識して、集中して、光球を維持して圧縮」


そして再び光球が大きくなる。


「それで圧縮出来たらまた魔力を乗せての繰り返し。後はひたすら疲れるまでやってから」


と、手の平を握ると消えた。


「自分の身体に還元する。あ、単に握るかして触れたら還元されるわ。自身の魔力は必ず自身と融和するから」

「ふむ」


圧縮された魔力の運用方は即ち効率的な魔力運用の鍛練だろう。

決して魔力量を増やす鍛練ではないはずだ。

しかしながら特異な魔力のゲンゾーにとってその邪道は正に一石二鳥となる。


「後は習うより慣れろ、だな」


両手を胸元に翳し、座禅の様にうっすらと瞳を開いて意識を集中する。


「魔導を放たず、手の平で維持するイメージよ」


それ以上は集中力を欠くだろうと判断してエレンは続けず、ゲンゾーはひたすら集中する。

瞬間、僅かに両手の間に奇妙な意識が芽生えた。


(これは……何の感覚か?)


口では言えない。

集中している為に確認する暇も無い。

ただ両手の平の間に『何か』が確かに有る。

エレンはその何かを見て僅かに息を呑み、目を凝らす。


(何これ?何も無い……ううん、確かに魔導の畝りのような物が見える。無属性だから目に見えないだけでちゃんと有る)


魔力の畝りはゲンゾーが維持する中、徐々に穏やかに、そして小さく纏まっていく。


「くっ……!」


汗を額に垂らし、ひたすら集中するゲンゾーは、更に自分の中の魔力を乗せ、同時に苦しそうな吐息を漏らした。


(これは……想像以上に難儀だ。だがこれが、この圧縮があの時の一撃の威力か)


あの時のとはフーとの闘いの時だ。

フーの片目を抉った時の後の倦怠感で自身の魔力量を計り、同時に圧縮したその畝りで内心自嘲する。


(あの時は明らかに無駄が多かったの。周囲の空間もろとも破壊しておったのだからな。結果論だが、上手くやればもっとピンポイントに狙えたようによ)


自身の身体とで魔力量を計り、同時に圧縮を続ける。

と、僅かに体勢が下がって来たのを感じる。


(ここまでか……!)


そして両手を挟み込み、魔力を還元して深く息を吐いた。


「生半には行かぬな、これは」

「誰だってそうよ。ひたすら繰り返すしか無いの」

「我が生涯の修験に果て無きか。良かろう」


再びこの実感を忘れない様にと両手を翳した時、エレンは振り返って精霊殿正面門の方角を見た。


「どうしたのかね?」

「誰か来た。この魔力の色は…………何で来たのかしら」


その表情はあからさまに不機嫌な物に変わった。

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