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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第三章・トラジオンのカリギュラ
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実力差

肩で息をするグレタに対するは汗一つかかず軽快なステップを踏むゲンゾー。

掌打ですらない手のひらを何度となく受け、今意識すらも朦朧としてきた。


(何故だ!この拳士は何をしている!)


先の後、そして後の先を狙った一打は間違いなくカウンターのそれだ。

しかしカウンターとはそれと分かれば致命的な一撃を防げる。

後から来る攻撃と分かった以上タイミングの多少の誤差はあれど、ある程度読めるからだ。


(にも関わらず……奴は全てクリーンヒットさせている!実戦ならばもう何度死んだか分からない程に!)


その事実にグレタは奥歯を噛み締め、そんなグレタを見ながらゲンゾーはステップを止め、構えを解いた。


「さて、答え合わせと行こう」

「…………」


最早言い逃れ出来ない程の実力差だ。

黙って聞いた方がこれからの為になる、そう判断したグレタは黙って木剣を下げる。


「一つ、読みを止めて地力で攻めたは良い。しかし初動で反応速度とリーチを見切られては意味が無いぞ」


初動、即ちゲンゾーが太極拳に構えた時の動きだ。

素早く喉元を狙ったが下に回られ、挙句その間合いと腕の長さをゲンゾー自身の腕で測られていた。

加え、肘打ちに対して膝で迎撃した事。

この事実が二つの答えをゲンゾーに寄越した。

一つは全く肘打ちの予期が出来なかった事、即ち純粋な反応速度で迎撃した事だ。

始めから蹴りで迎え撃つならば、間合いを引き剥がす様に蹴る為、膝ではなかったはずだ。


「そして次に、貴様は剣士として剣を使わず、剣に振られておるぞ」


二つ目の理由は性質的な弱さだ。

武具に拘るが故に武器に振り回されている。

懐に入られた時点で木剣を放し、肘打ちを下がって回避してゲンゾーが下がる時に徒手で反撃すれば、何かしらのダメージを与え、その後引き剥がせばまた木剣も拾えたはずだ。

結果論ではあるが、初動の時点で間合いのみならず性質的な弱ささえも見切られていたのだ。


「…………ではあの掌打ですらない掌打を何度も食らった理由は何だ?」


呼吸が整って来た。

しかしだからこそ落ち着いて理由を聞く。

性質的な弱さを突かれ、内心怒りがふつふつと煮え滾っているが、今はそれを飲み込む。


「それは御主の見切りは動作のパターン付けによって決まる偽の見切り故よ」

「ッ……!」


しかし吐き出しそうになる。

自分の見切りは見切りでないと告げられ、今まで培って来たこの技術を否定されたようだからだ。

だがゲンゾーは真摯にグレタを見返し、そこに侮蔑の色は微塵もない。

ならば、とグレタは深く息を吐く。


「……偽の、とは?」

「御主の見切りとは、簡単に言えば反応速度の競い合いよ。相手の挙動をパターン化し、そこから導かれる攻撃、そこに自分の攻撃を挟んで揺さぶりを与え、大きな隙を誘う。しかし真の見切りは反応速度による物ではない」

「…………それが貴様の行っていたあの掌打か?」

「然り」


確かに納得は出来る。

あれほど遅い一打を捌けないのは純粋な反応速度では意味の無い一打である為、そう言われれば地力で負けていないグレタが一方的に食らうはずがない。


「だが理解は出来ん。まやかしの術理を単純な武技に使えるのか?」

「まやかしではないな」


と、ゲンゾーは顎に手を当て、


「では、分かりやすい例を見せようか……の!」

「ッ!?」


拳をグレタの顔面目掛けて放った。

すぐさまグレタは反応し、防ぐ様に、また拳を切り裂く様に刃を立てる。

と、寸前で拳は止まり、ゲンゾーは不敵に笑った。


「さて、どうかね?」

「この拳ならば見切ったぞ?真剣ならば貴様の拳は」

「儂が聞いたのは……」


と、腹部に違和感を感じて視線を落とし、凍り付く。


「この脇腹の拳の事なのだがな」


グレタの脇腹、水月の位置にも拳が当たっていた。

先ほどまでの体勢ならば僅かに腕を動かすだけで簡単に防げただろう。

しかしゲンゾーは敢えて顔面に拳を放つ事で強制的に腕を動かし、致命の一打を密かに放っていたのだ。

これの意味する所は即ち、


「御主自身の反応速度を逆手に取れば、この程度は造作もないぞ」


そう、グレタ自身の反応速度を逆手に体を動かし、傾注しないはずの動きを無意識のうちに傾注させて好きに体勢を取らせたのだ。

グレタの動きに合わせてカウンターを放っていたのでなく、カウンター攻撃に合わせてグレタを操っていた様なものだ。


(初動で間合い、反応速度を見切られ、おまけに良いように遊ばれただと!?)


怒りと共に虚脱感も湧き上がる。

例えどれほどの研鑽を重ねてもこの拳士には届かない、そう本能が告げている。


「認めるものか!」

「ほう」


ばっと木剣を振るってゲンゾーを引き剥がし、再び構える。

対するゲンゾーはその根性だけは認めると言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。


「貴様の小賢しい小技など!所詮は小技だ!力で打ち破ってやろう!」

「力技で来る、と?良かろう、では……」

「!?」


一瞬の内にゲンゾーは間合いを取り、手首を払って木剣を取り落とさせ、


「ぜぇっ!」


手刀で挟み込めば、綺麗に木剣が砕けた。


「…………」


グレタは息を呑む。

これを人体に喰らえば骨まで砕けよう。

木剣とは持てば分かる、明らかに人体のそれよりも硬く、重いのだ。

それを素手で破壊するなど、ましてや押さえつけたものではなく宙に舞う物をだ。

グレタはぺたりと座り込み、ゲンゾーは少し怒気を覗かせる。


「小技小技と御主は宣うが、こうした技巧は先人たちの血と汗の結晶よ。儂を小技使いと謗るは良い。しかしな、儂の技巧を小技と呼ぶは許さん」


そう告げると背を向けた。


「だが御主の剣は決して悪くは無いぞ。より高みを目指したいと言うならば、また稽古してやろう」

「…………」


そう言い残して去った直後、グレタの目の前にかつんと木剣の柄が落ちて来た。

ややあってからその柄を握りしめ、滲みそうな涙を堪えた。


「……見ていろ……!いつかそんな大口が叩けない程に……強くなってやる……!」


後日、ゲンゾーはエリルの修行メニューの他にグレタの修行メニューも作り上げたのは言うまでも無い。

あけましておめでとうございます。皆さん今年もよろしくお願いします

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