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ガーディアン  作者: フライング豚肉
第三章・トラジオンのカリギュラ
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グレタの稽古

「ふむ、参ったの。人数が足らぬはどうともならぬ」

「…………良いから降りろよ」


精霊殿中庭、そこにはボロボロになって突っ伏すエリルの背でふうむと唸るゲンゾーがいた。

闘技場でのファイトマネーを稼ごうにも、ある程度の酌量は欲しい。

故に今回ギルドへの参入を決断したのだが、どうにもうまくいかないのである。

そして帰って早々に稽古をして今に至る。


「どうにもならぬぞエリル」

「良いから降りろって……」

「いや、貴様の弱々しさを言っとるのだ」

「…………さいですか」


よっこらとゲンゾーは立ち上がり、頭数をどうするかと辺りを見渡す。


「んうぅ、いんちゃんはヒンヤリしてて気持ち良いですよぅ」

「あたしも抱きたいー!」

「アノーラ、いんちゃんは物じゃないんだから!リリアさんも!」


戦力外くさい兎娘と双子はどうやら隕鉄を取り合っているようだ。

実際金属の身体を持つ隕鉄は夏場にはヒンヤリしているのだろう、しかし当の隕鉄は困った表情でリリアに抱かれている。


(隕鉄や竜胆を頭数に入れたいが恐らくは無理であろうな。アリーヤは己の生活があろうが、声だけでもかけてみるかね)


取らぬ狸だがもしかしたら三人はいけるかも知れない。

そう考えた時、


「黒檀の」

「うむん?」


グレタが声をかけて来た。

やや敵愾心の篭った眼差しを向けているが特に嫌悪しない。

寧ろグレタの方に気を遣ってやるべきだとは思っていた。

だからこそ彼女から声をかけて来た事に少し驚くゲンゾーだったが、彼女が木剣を携えていた事で合点が行く。


「稽古の相手かね?」

「そうだ。地力で負けたなど吹聴されたくはない」


勿論そんな事はしないとグレタは分かってはいた。

しかし彼女にとって気に食わない事が確かに有る。


(あのケウデスとか言う拳士を倒したか。私など見向きもしなかったあのいけ好かない拳士を、更にいけ好かない貴様が下したなどと……!)


自身はケウデスの前にあっさりと膝を屈し、しかし目前のこの拳士は勝利を収めたと言う事実だ。

確かにゲンゾーは技巧の面でグレタを圧倒している。

しかしステータス的に考えるとならば勝てない訳ではないのだ。


(ならば地力で押し切れば私が勝つはずだ!)


そんなグレタを眺めつつ、不敵に笑むとゲンゾーは構える。


「良かろう。一つ胸を貸してやるぞ」

「ほざけ。今度こそ私が勝つ」


ゲンゾーは太極拳に構え、グレタは木剣をゲンゾーの目線に合わせて構える。

やや対峙し、


「ッ!」


グレタが踏み出して木剣をゲンゾーの喉目掛けて突く。

ゲンゾーは手のひらを返して転がす様に木剣を上に捌き、肘打ちを腹に目掛けて放つ。


(食らうか!)


すぐさま膝を出して肘を受け止め、木剣を振り下ろす。

が、ゲンゾーは片手で逆立ちする様に下からの蹴りを放ってグレタを引き剥がした。

一旦距離を取り、グレタは内心手を強く握る。


(そうだ。奴の挙動に惑わされるならば常に私が先手を取れば良いだけのこと。賢しい小手先を繰り出すならば力で打ち破る!)


一方のゲンゾーは太極拳の構えから一転、ボクシングに構えた。

僅かなステップに挙動を隠すが、グレタは最早その動きを傾注しない。


「ふっ!」


小さく払うように木剣を振るう。

僅かな隙を生まないよう細かく素早くだ。

と、木剣をかわしてやや仰け反った瞬間、グレタはそのままの動きと反動で大きく、外から木剣を放つ。


「ッ……!」


かわされた。

そして空いた体勢の中、手のひらが頬に当たった。

掌打でもない、ただの手のひらがだ。


「貴様……!」

「ふむ、一打もらったの」

「舐めるな!」


更に素早く迫る。

しかし悉く捌かれ、弾かれ、かわされる。

少し落ち着いて様子見と構え直す。

が、その瞬間僅かにゲンゾーが体勢を前にやった。


(ここだ!)


好機とばかりに踏み出して木剣を振るう。

が、


「むぐ!」


またも手のひらが頬に当たった。

当てたゲンゾーからそのまま距離を取り、動揺を隠す様に構え直した。


(馬鹿な!今のは確実に私が先手を取れたはず!何故奴の方が私より早く攻撃出来たのだ!)


分からずただひたすらに攻撃を重ねたが、グレタが疲労に朦朧した時には既に何度手のひらで頬を撫でられたか数えられない程だった。

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