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6

 手を合わせ終え、目を開くと陽が眩しく目が少し膨張したように感じた。眩んだ目も三回ゆっくり瞬くと順応し、照準が合ってきて、割れた指輪が目に入る。

「どうしよっか?」

 ゆかりに尋ねると、彼女も名案を思い付かず首を傾げた。

 少し考え、思い付きを口にしてみる。

「そう言えばゆかり、さっきマッチ使ってたでしょ?」

 線香を上げる際ゆかりがバッグから持ち出したマッチを借り受ける。

「使っていい?」

「ん? いいけど」

「全部」

「え? いいけど、全部って何するの?」ゆかりが怪訝そうな顔をする。

「これ、アメジストって、胡散臭いなって」

 言いながら私は割れた指輪を摘まみ、近くの平たい石の上に置き、続いてマッチ箱からマッチを取り出す。ゆかりが顔をしかめる。

「嘘、ほんとにやるの?」

 私が何をするか理解したゆかりはたしなめるような顔つきとなったが、私は「いいんだ」と言って指輪に向き直り、マッチを擦り、その火で指輪をあぶった。

 指輪は、まず表面が縮み、何か層のようなものが動いたと思うと次の瞬間、発火した。「うわっ」というゆかりの声は非難ではなく純粋に驚いている調子だ。マッチの火が消えても指輪は燃えていて、しかし鎮火しそうになったので私はマッチ第二弾を点火して燃焼を支援した。微かな刺激臭を出し、指輪は黒く燃え尽きた。

「……二本しかいらなかったわ」

 マッチ箱をゆかりに返す。ゆかりはそれをバッグにしまい、言葉を探すように逡巡して、「……燃えたね」と言った。

「燃えたね」と私も応じる。「マッチ程度で燃えたんだから、たぶん、セルロイドとかそういうのでできてたんだろうね。予想というか、覚悟はできてたけど」

「できてたんだ、覚悟」とゆかりが言う。

「いや、燃やすのは思いつきだから覚悟っていうのは変かもしれない。でも」

 私は、ふっ、と炭化した元指輪に息を吹きかけた。ぺたっとして動かない。もっと強く息を吹きかけても、それは動かなかった。

「でも、割れているのを発見した時点で、燃えたも同然だったから」

 ゆかりが、承認とも否定とも取れる顔をする。私も曖昧な笑みを返した。

 行こっか。どちらともなく目で言い、私たちは寺を後にした。

 私たちは何も起きなかったかのように毎年のごとくに喋り、午前十一時、毎年のごとく寄る食堂に入った。二人、鶏の唐揚げを注文する。店員が注文を取って下がると同時に私は、切るように手刀を首に横切らせ、顎を上げて白目を剥いてみせた。我流断末魔の手話に、ゆかりがくすくすと笑った。


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