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第4話 純情ビッチ

 SMプレイの店を借りての情報収集は、半分は上手くいった。

 しかし新しい問題が発生した。

 いや、今になって露呈したと言うべきか。


 この店は大通りに面していて利用する者が意外と多い。

 金額も高値の為、金持ちが多くて色んな所とのつながりを持つ者が殆どだ。

 酒場で酒の力借りて近づくよりも、性欲を満たす場所と言うことで警戒心が低い奴ばかりだった。

 だから確信的な情報を仕入れるまで、レアトリが頑張ればよかったんだけど……


「おいクソサキュバス。俺たちを騙すつもりだったのか?」


 宿の部屋。

 俺の目の前には、正座するレアトリ。

 理由は借りている店での調査をやめたいと言って来たから。

 魔王軍は基本的に本人の意思を尊重するので、理由を聞いたらとんでもないことを言った。

 それが原因で俺に正座をさせられている。

 横からルンナの熱い視線を感じるけど、今それに反応していたらキリがない。


「う、嘘は言ってないわ! 夢魔族がみんなビッチだと思ったら大間違いよ!」


「ほぉ。ここへきて開き直るか。てめぇの処女を奴隷商人に売りさばいてもいいんだぞ? 未経験のサキュバスなんて、どれだけの値段がつくんだろうなぁ?」


「悪魔よ! あんたホントに悪魔よ! 純粋な乙女を金の力で闇落ちさせるなんて!」


「闇落ちしたら色んな蔑みを受けるんだろうなぁ。色んな人から凌辱されて……フヒヒ♪」


 ルンナが完全に妄想の世界に飛翔していた。

 どうやら連日レアトリの様子を観察していたせいで、既におかしかった頭のネジが更に外れたらしい。


 サキュバスが分類される夢魔族が、男と寝た経験が無いなんて初耳だ。

 レアトリはどうやら正真正銘の処女らしい。


「だって……初めては好きな人がいいんだもん……そう思っていたら大人になっちゃって……里の皆からバカにされてそれで……」


 俯いた彼女から滴が零れる。


「バカにされて里を飛び出して来たと」


 レアトリが俯いたまま小さく頷いた。


「グラム。どうするの?」


「レアトリが嫌なら仕方ない。今ある情報でなんとかするしかないだろ」


「じゃ、じゃあ……もうあんな恥ずかしいことしなくていい?」


 涙を浮かべた瞳でこちらを上目遣いで見つめるレアトリ。

 どうやら鞭で男を叩いたり、誘惑するのはまだ恥ずかしいらしい。

 本人曰く、最初に会った時も経験者風に頑張って演技していたそうだ。

 そんな地味な努力よりも、最初から本当のことを言っておけば、恥ずかしい思いをしなくて済んだのに。


「お前が純粋な乙女だと言うことは認めないが、仕入れた情報は有益だから勘弁してやる。その代り推薦状を貰えたら絶対に魔王軍に入れよ」


「もちろんよ! あたしが生活する為に! 貴方たちの業績と給料の為に!」


 レアトリが正座したまま両拳をギュっと握る。

 方法はともかく、協力に対して前向きになってくれたらしい。


「なんか洗脳みたいになってない?」


「いいんだよ。協力してくれるんだから」


 ルンナにそう返し、部屋にある椅子に座った。

 そしてルンナが円形のテーブルの上にエフェクトプレートを置いて魔力を流す。

 半透明のホログラムにこれまで得た情報の一覧が黒字で開示される。

 その中でも有益だと思われる物には、赤字で色をつけてあった。


「これ……いつの間にまとめたの?」


「レアトリさんが恥ずかしいプレイをしている間にです」


「こうゆう資料作りは、ルンナが得意だから俺はノータッチだ」


 魔物との戦闘や営業戦略の立案は俺の役目で、戦闘時の補助営業時の資料作成はルンナの役目だ。

 それが俺とルンナが組んで働く場合のスタイルである。

 適材適所。それが一番しっくりくる。


「うーん……ねぇ、なんでこれが赤字なの?」


 赤字の情報が有益だと、ルンナから説明を聞いたレアトリが一つの文章を指さす。

 そこには魔族王ペルセンダのとある側近の名前が記載されていた。


「『ディルヴァラの遠征記録』? これがなんで有益なの? それにディルヴァラって誰?」


「魔族王ペルセンダの側近の老人です。内政や直属部隊の育成も兼ねていて、王の右腕と呼ばれるエルフ族の男ですよ」


 ルンナの説明にレアトリが「へぇ」と声を出した。


「男がこの情報を自慢げに言っていたのは、王の右腕のことを知っていたからなのね」


「まぁな。王に最も近い男だ。この人を説得できれば会えるかもしれない」


「だけど、どうやって?」


 レアトリが首をコテンと倒す。

 彼女の意見は『その男に会うにはどうするのか』と言った所だ。

 会えばなんとかできる。

 

 それは自信をもって言い切れた。

 こちらの要望である魔族王ペルセンダとの謁見も叶うだろう。


「その会う為の情報がこの遠征記録です」


 ルンナが赤字の文を指でタップすると詳細が表示された。

 情報提供者はアテドル国の街に住む、とある馬小屋に努める魔人族の男だ。

 その男は必要な者に馬を貸しているのだが、その利用者の中にディルヴァラが居た。

 しかも外套を被って周りにばれない様に借りていたらしい。


 最初は休みの日の遠征だと無視していたが、一定期間を置いて必ず借りることから不思議に思った。

 そこで秘密裏に後をつけているといつも同じ場所(・・・・)で見失う。

 何度追いかけてもそこで見失うことから、何か隠したい事情があるのではないかと男は言っていた。

 ルンナはその情報から、男が毎回ディルヴァラを見失う場所を地図に落とし込んでいた。


「ここで毎回見失うんでしょ? あたしたちも一緒じゃないの?」


「多分この場所には隠蔽系の魔術が施されている。突破するには高い魔力を持つ者が必要だ」


「あたしの出番ね!」


 嬉しそうにレアトリが立ち上がる。

 しかしすぐに千鳥足。

 尻を床にぶつけた。


「足もお尻も痛い……」


「長時間正座していたらそうなりますよ。はい、椅子です」


 ルンナに差し出された椅子へ、レアトリがゆっくりと座る。


「年寄りのババアか」


「まだ処女って言っても許される年齢よ!」


 椅子に座ったレアトリの切り返しをスルーして本題に入る。


「隠蔽系の魔術を突破してディルヴァラに会う。会ってしまえばこっちもんだ」


「どうして? そのお爺さんに魔族王との仲介をどうやってお願いするの?」


「お前が誘惑して精神操作すればいい。向こうも魔力が高いだろうから、完全な掌握は無理だろうだけど、頼みの一つ聞かせるくらい魔力がAランクのお前なら出来るはずだ」


 夢魔族の相手の精神に介入する能力は、相手の魔力量と自分の魔力量に差があると使うことが難しくなる。

 あくまで完全に精神掌握できるのは、圧倒的な魔力差がある相手のみだ。


「うわぁ……ホント魔王軍って容赦ないのね」


「グラムだけですよ。容赦ない手段を選ぶのは……」


「越えちゃいけない一線は守っているから大丈夫だ。今回の作戦でレアトリは男と寝る必要はない。近づいて精神に介入するだけでいい。いけるな?」


「ちょっと恥ずかしいけど、今までの仕打ちに比べたら楽勝よ!」


 親指をグッと立てるレアトリ。

 どうやらSMプレイの店で働いていたことが良い経験になっているらしい。

 素晴らしいじゃないか。


 これならハニートラップが使える日も近いかもしれない。

 魔王軍に入る時は、魔力量も高いから有望株間違いなしだ。

 彼女をスカウトしたとなれば、俺の給料が引かれる心配は無いだろう。

 今俺が注力するに値する人材なのはハッキリと言い切れた。











 宿を出て馬小屋を目指す。

 適当な馬を三頭借りてそれぞれ跨る。

 太陽はまだ頂点から少し傾いた程度。

 今ならまだ明るいうちに調査出来そうだ。


「ちょ、ちょっと待って!」


 振り返ると暴れる馬を必死で押さえつけようとするレアトリ。

 こいつ馬に乗るのも苦手なのか。

 街の石門で馬が暴れている絵は、かなりシュールだ。

 通行人たちの視線が必要以上に集まる。


「きゃっ」


 小さな悲鳴。

 レアトリが馬から振り落とされた。


「レアトリさん! 大丈夫ですか!」


 心配したルンナが馬から降りて、レアトリに近づく。


「またお尻ぶつけた……」


 半泣きのレアトリが尻を擦って立ち上がる。

 本日二度目のケツ強打は結構痛いらしい。


「馬に乗れないのか?」


「乗れないこと無いけど苦手なの」


「なら俺の方に乗れ」


「だ、ダメよ! 男の人とそんなに密着するなんて! そんなの淫乱女じゃない!」


 こいつは変なところでプライドが高い。

 未経験だと悟られたくないが、バレてからは恥ずかしいことは出来ないと言い張る。


「あぁ? そんなエロイ格好してるのに今さらか?」


「一応夢魔族ですもの。これが標準装備よ」


「矛盾してませんか?」


 ルンナの言葉に「そんなことないわよ!」と元気な返事。

 気合だけは一人前だ。


「じゃあ、レアトリはルンナの方に乗れ。今日中にディルヴァラに会うぞ」


「「了解」」


 二人の返事が見事にハモった。

 仲が良さそうで何よりだった。


 レアトリがルンナの馬に騎乗するのに手間取っている。

 まだ時間がかかりそうな雰囲気である。

 小さくため息をして、勇者時代のことを思い出す。


 三十年前。

 勇者時代に俺はペルセンダとディルヴァラに会ったことがある。

 当時のエルフ族は魔族国家に非協力的で魔族領内では浮いた魔族の一つだった。

 

 魔王軍に協力を迫られ里は火の海。

 多くの命が失われた。

 当時の魔族長、エルフ族の里を治めていた男の娘がペルセンダだ。


 エルフ族を根絶やしにしようとする魔王軍を押し返す為に、勇者に協力を依頼したバカな男……

 結局エルフの里は勇者と魔王軍の戦闘に巻き込まれる形となり、魔王軍は俺を標的に変えた。

 俺が魔王軍を全滅させたので里は救われた。

 

 魔族が勇者に助けられたなど開示できる情報ではないので、この事実は歴史の闇に葬られている。

 懐かしいなぁ。

 過去の記憶にそう思い、口元が緩んだ。


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