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第3話 魔族王ペルセンダ


 ――魔族王


 それは魔族国家を治める三人の王。

 三カ国から構成されるそれぞれの国の王であり、魔族領内の全決定権は基本的にその三人の会議によって決まる。


 かつては魔王軍のトップである魔王の方が力を持っていたが、グラムが勇者時代に魔王を討伐して以来、魔族王は魔族国家の頂点に君臨してきた。


 最も強く、最も聡明であり、最も高貴な三人の名を知らぬ者は魔族領には存在しない。

 それほど絶対的な王の一人であり、魔王軍営業部のあるアテドル国を統治する『ペルセンダ』は窓の外を見てため息。


 闇夜に浮かぶ赤い月の光が部屋に差し込む。

 金色の髪と瞳が紅の光に照らされた。

 腰まで伸びた髪を揺らして部屋の中を振り返る。


 自分が作業する机に置かれた書類の量に気が重くなった。

 エルフ族である彼女は事務処理が苦手だ。

 机の上で睨めっこしているよりも、身体を動かしていたい。


 行動するのも感情的に動き過ぎて、部下に怒られることがよくある。

 自分が王の器で無いことはよく自覚していた。

 もしも今していることがバレれば、タダでは済まないだろう。


 他の魔族王からの報復。

 魔王軍による粛清が始まる。

 それくらい今の自分がしていることは、魔族国家に対する裏切り行為だ。


(それでも……)


 下唇をキュッと噛み、机の上に置かれた書類と向き合う。

 いつかバレルかもしれない。

 そんな思いを抱きつつ、魔族王ペルセンダは書類を一枚手に取った。











「本気グラム!? 魔族王に推薦を貰うって! そもそも会えるわけないよ!」


「そうよ! もっと現実的な案を出しなさいよ!!」


 二人がうるさい。

 こっちだって普通に会えるとは思っていない。

 

 アテドル国の魔族王ペルセンダ。


 エルフ族の彼女とは一応の面識はある。

 営業部の部長と友達で小さい頃に会ったことがあるからだ。

 もちろんそれだけで面談できるとは思っていない。


 仮に会ったとしても、特に理由も無いのにレアトリを推薦してはもらえないだろう。

 部長との面識を生かして交渉してみるのもありだけど、それでは目標を達成することは出来ない。


「魔族王ペルセンダと会う方法は今から考える。だから今日は寝る!」


 いつまでも居座る二人を部屋から追い出す。

 ようやく訪れた安らぎに大きな欠伸。

 頑張らないといけないのは明日からだ。

 

「あれ?」


 懐に締まっていたエフェクトプレートが反応している。

 取り出して魔力を流すと蒼い半透明の画面が現れた。

 連絡は部長から。

 さっき送った内容に関するモノだった。


 ちなみに送ったのはレアトリを魔王軍に入れる為に、魔族王の推薦を貰うと言う内容だ。

 うちの部長が許可を出しても、何も実績や推薦が無い者を魔王軍が入ることは不可能。

 会議の対数決で確実に落とされる。


「添付資料?」


 メールには添付した資料もついていた。

 こうゆうことも出来るなんて、ホントにこのプレートは万能だ。

 資料の文字を押すと、内容の閲覧が可能になる。


「これは……」


 それは魔王軍で管理されている『ある資料』だった。

 そして文面には今回資料を付けた理由も記載されていた。

 部長と俺の目標が同じで一安心。

 ホッと息を吐くと最後の文が目に入る。


『頼むぞ』


 それが上司である部長の言葉だった。













 次の日の早朝。

 俺たちは宿の食堂で朝飯を食べながら打ち合わせを始めた。

 俺の向かいにルンナとレアトリが座り、蒼と紫の瞳で睨んで来る。


「朝からそんな睨むなよ」


 二人の視線に肩を竦めて、長机の上に視線を落とす。

 少し塩辛いスープと黒糖のパン。

 魔族国家の食糧の殆どを担うアテドル国でもこの量の食事。

 勇者の影響は思った以上に早く、各地に広がっているらしい。


 アテドル国は海を挟んだ人間領から最も遠い場所にある。

 前線に近い場所に補給物資を送っているから、国内が最も質素になるのは仕方がないかと割り切る。

 今は新しく召喚された勇者の出した被害で、魔族国家には余裕がないのだから。


「でもさグラム。何かいい手はあるの? 会うだけでも大変なのに会ってからも大変だよ? そう何度も会えるとは思えないし、一度で推薦を貰うなんて……」


 ルンナが黒糖のパンをハムスターのように食べながら聞いて来た。

 彼女の意見は正論だ。

 推薦には『血の捺印』と呼ばれる魔族王の了承がいる。


 魔族国家に三人しかいない王の捺印なのだ。

 押された書類は魔族国家で最も重要な物となる。

 それほど重いモノを簡単に押してはくれないと言うのは百も承知だ。


「いいか。俺たちに必要な物は二つ」


 指を二本立てて、二人の前に提示する。


「一つは『魔族王ペルセンダに会う為の口実』、二つ目は『血の捺印を貰う為のネタ』だ。もらう為のネタに関しては大体の目途は立っている。裏取りを済ませばクリアされるはずだ。問題は……」


「会う口実?」


「その通り」


 ルンナの言葉に頷く。

 実は俺たちには会う口実がない。

 部長に話を通してもらえれば会えるかもしれないが、プライベートの付き合いのあるペルセンダを巻き込むことをきっと部長(あの人)は嫌がる。


 あくまで俺の勘だけど。


「どうするのよ。八方塞がりじゃない」


 レアトリが豊満な胸元を寄せて詰め寄って来る。

 ギュッと押し付けられた谷間に思わず目を奪われた。


「あら? 朝かお盛んね♪」


 レアトリが挑発的な笑み。

 色気を感じさせる大人の顔に身体つきも申し分ない。

 やっぱりハニートラップには最適だ。


「レアトリ。やっぱりお前の力が必要だ」


「あたし? まぁなんでも来いって感じだけどね」


「今回の俺たちの給料のために……その身体を生かすんだ!」


「だから水商売はやらないって言ったでしょ!?」


 レアトリが机を両手でバンバン叩く。

 スープが零れるからやめて欲しい。


「誰も男と寝ろとは言ってない。必要な情報を聞き出す為に男を誘惑しろって言ってんだ。部屋に連れ込まれそうになったら、犯されて男の欲望を受け止めてから助けてやる」


「それってもう事後よね!? 助ける意味ないわよね!?」


「朝から最低な会話だよ……」


 今度の方針を決定した俺たちはさっそく宿を出た。

 石の煉瓦で装飾された道を歩き、空を見上げた。

 俺たち魔族の状況とは対をなすように照り付ける太陽。

 

「いい天気だ」


「ホント。この地域は気候が安定してるわね」


「やっぱりレアトリさんは、夢魔族の里から来たんですか?」


「そうよ。山奥にある里だから寒いことが多いし、気候が急に変わるから大変よ」


 レアトリが肩を竦めた。

 夢魔族の里はこことは違う『別の国』の近くにある。

 近くの国ではなく、少し離れたアテドル国に来るくらいだ。

 何か事情を抱えているのだろう。

 事実今彼女は無職だし。


「まぁ抱えている事情は、気が向いた時に話せばいいさ。みんな秘密くらいある。なぁルンナ?」


「グラム!」


 ルンナが必死に俺も口を塞ごうと手を伸ばしてくる。

 しかし小柄な彼女の手を避けるのは容易い。


「そう言えば貴方たちの関係は何?」


「「幼馴染」」


 そう答えた俺たちにレアトリが「チッ」と舌打ち。

 事実を答えたのにヒドイ奴だ。


 同い年の俺とルンナは幼少期から一緒だった。

 そして今の営業部部長に魔王軍へと勧誘された。

 そのまま腐れ縁でこうして一緒に居る。


「幼馴染でこうして一緒に居るってことは、もう一線を越えたの?」


「だれがこんな変態女のプレイについていけるか」


「ひ、ヒドイよ! それにレアトリさんにその話はやめて!」


 耳まで赤くしたルンナが詰め寄って来る。

 彼女は美しい容姿から営業部の女神と言われている。

 しかしその正体を知る者は少ない。


「どんな性癖持っているの? 種族柄そう言うのは興味あるの!」


 レアトリが目を輝かせてルンナに詰め寄る。

 ルンナは顔赤くして「そ、そんな面白いもんじゃないですっ」と言っていた。

 まぁ面白いもんじゃないのは確かだ。


「じゃあ、レアトリ。ここで情報収集宜しく」


 そう言って一つの店で立ち止まる。

 大通りに堂々と構える店は、SMプレイ専門の店だ。


「ここであたしに醜態を晒せと言うの!?」


「よし。SかMのどっちかを選べ」


「どっちも嫌!」


 レアトリが断固拒否の姿勢を見せる。

 どうやら夢魔族のプライドが許さないらしい。


「ね、ねぇグラム」


 隣で話を聞いていたルンナが俺の黒い外套の端をチョンチョンと引っ張る。


「わ、私はMかなぁ……」


 頬を紅潮させモジモジする姿はグッと来るけど、発言がアウトだ。


「レアトリよ。密室で相手の精神に介入して情報を聞き出すだけだ。実際のプレイはしなくてもいい。店の主人には適当に話をつけるから」


「うわぁ……魔王軍って結構容赦ないのね」


 顔が引きつったレアトリ。耳元で「無視!? ねぇグラム! 私は無視!?」とルンナの声が聞こえるが今は無視する。

 そのまま店に入り、主人の男と交渉。


 最初は渋っていたが、俺たちが魔王軍であることや夢魔族を無償で貸すと言う条件の元、協力してくれることになった。

 あとは夜にこの店を訪れる客とレアトリのやり取りを陰で見るだけである。

 昼間は適当に情報整理しよう。


「ここがあんたたちの仕事場だ」


 ハゲの主人に案内された部屋は床も壁も紫で統一されていて、カーテンで部屋の中が仕切られていた。

 その奥には色んなプレイに使う道具が保管されている小部屋。

 監視用の机と椅子も用意されていた。

 ここで俺とルンナが居座ることになりそうだ。


「じゃあレアトリは着替えて来てくれ」


「不服だけどこれも魔王軍に入る為ね」


「頑張って下さい」


 主人に別の部屋に連れて行かれたレアトリを見送る。

 用意された椅子に座って足を休ませた。

 あんまりバタバタ動くのは苦手だ。

 そう思ってぼんやりしているとルンナが話しかけて来た。


「凄いよグラム! これ見て!」


 昼間なのに珍しく興奮する彼女の手には縄が握られていた。


「俺には全く何が凄いのか分からんのだが?」


「もうっ、私の性癖知ってるくせにっ」


 何故か嬉しそうなルンナ。

 さっきまで恥ずかしがっていたお前は何処に行った。


「縄で縛られるプレイが一番好きだなんて、世紀の変態だな」


 そうルンナは根っからのドMだ。

 一番好きなプレイは縄で縛られ、言葉責めされながら滅茶苦茶にされること。

 間違いなく一流の変態だ。


「そんな言葉言われたら下腹部が濡れちゃう……」


 頬に手を添えて惚けた表情。

 俺がいくら注意しようが、どれだけボロクソに言っても、それは全て彼女の喜びに変わる。


「危なかったよぉ。レアトリさんの前でグラムが私を言葉責めするから、興奮を抑えるのに必死だった」


 嬉しそうに縄を差し出して、笑顔のルンナ。

 そんな彼女を見て眉間を抑える。

  

 もうダメだ……こいつ……


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