遭遇
そう言うと同時に、木の影から狼の姿をした《魔物》が飛び出してくる。
シャルロットが突然のことに「ひっ!」と小さく悲鳴をあげて、尻餅を付く中で、アルフレドは素早く剣を抜き放ち、飛び出してきた《魔物》を斬りつける。
浅かったか。
切られた《魔物》が地面に着地をしたのを見て、アルフレドは内心で舌を打つ。
最初の《魔物》の突撃を皮切りに、木の影から狼のような《魔物》が5匹現れる。
1匹1匹は大した事はないが、《魔物》は野生動物同様群れで行動する。
そうなればもう、多勢に無勢で、太刀打ちが出来なくなる。
囲まれた事で、シャルロットは戦意を喪失しかけていた。単純な数の差で5対2。
一斉に飛びかかられては、勝ち目などない。そう思い、諦めかけていた。
「シャルロット」
「は、はい!」
「援護は任せた」
声を掛けられ、そして、アルフレドは《魔物》へと突っ込んでいった。
アルフレドは1番近くにいた手負いの《魔物》に斬りかかる。
炎を反射し、煌めく白刃は《魔物》を捉え、その体を切り裂く。
《魔物》の注意がアルフレドに集まる。
叫び、吠え、牙を剥き、爪を煌めかせながら、アルフレドに迫る。
それらを防ぎ、避け、いなし、剣によって迎え撃つ。
私も何かしなきゃ。
シャルロットは杖を握り締めると、魔法の詠唱を始める。
シャルロットが言葉を紡ぐと、彼女の周りに赤い魔法陣が浮かび上がる。光が踊り、集まっていく。
狙いを《魔物》に定めると。
『——炎よ!』
叫ぶように、魔法を発動させる。
『ギャウウウ!』
シャルロットが放った炎の魔法は《魔物》を燃やす。嫌な臭いが辺りに充満する。
突然の発火に焼けた《魔物》とそのそばにいた《魔物》の足が止まる。
肉の焼ける嫌な臭いを意に介することなく、焼けた《魔物》とそのそばにいた《魔物》を切り払う。
「あーあ、見てられねェなァ」
あと2匹。
そう思ったところで、どこからともなく声が聞こえてくる。
アルフレドは剣を構え直すと、周囲に視線を巡らす。
シャルロットも突然の声にキョロキョロと辺りを見回す。
「こっちだぜェ!」
不意に頭上から声と風切り音が聞こえ、咄嗟に剣を頭上に構える。
ギィンと金属同士が擦れ合うような甲高い音が聞こえる。
そこでアルフレドとシャルロットは声の主の姿を見た。
そこにいたのは、狼の様な金色の双眸に灰色の体毛に、狼の様な尖った耳。先の尖った口に揺れる尻尾。その姿はまさしく。
「お、狼男!?」
シャルロットが驚きの声を上げる。
へえ、こいつが狼男か。アルフレドは努めて冷静に狼男を観察する。
鋭い爪に牙。体毛の下の筋肉はおそらく人間のものよりも、《魔物》に近いのだろう。それについては、先の一撃によって痺れている手が物語っている。
「なんだァ? ジロジロ見てきやがってェ」
「ああ、悪い。狼男を見るのが初めてなんで、つい見入ってしまった」
会話が成り立つくらいの知性がある。だったら。
「なあ、あんた。ここはお互い手打ちといかないか?」
「あン?」
アルフレドの提案に狼男は怪訝そうな目を向ける。アルフレドは更に続ける。
「先に襲いかかってきたのはそっちで、俺達はただそれを相手にしただけだ。あんたらの仲間を殺してしまった事は悪いと思っているし、無くなると思ってはいないが、俺達も襲われたことをとやかく言わない。どうだ?」
「……ククッ、アーッハッハッハッハ!」
アルフレドの提案に狼男が笑い出す。
何事かと思い、シャルロットは身構えるがアルフレドは自然体で事の成り行きを見守っている。
「狼男を相手に交渉! 面白ェじゃねェか!」
「……じゃあ、」
「だが、断る」
「な!?」
「そりゃ、そうだろォ。オレらはオメェらを食うために襲ってんだからなァ。獲物を逃がすほど、マヌケじゃァねェ」
獰猛な笑みを浮かべ、狼男が告げる。その言葉にアルフレドは愕然とする。
「だが、心意気は買ってやる。オメェら、手ェ出すなよ!」
狼男が《魔物》に告げると、《魔物》は犬で言うところのお座りをして待つ。
一対一で戦おうと言うことか。
それに応じるように、アルフレドはシャルロットを下がらせる。
そして、狼男と相対する。