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襲撃



それは、酷い光景だった。

たくさんの人が血を流して倒れ、建物は燃え、畑は踏み荒らされ。

多くの人が悲鳴を上げながら逃げ惑い、それを魔物が追いかける。

追いつかれたが最後、噛みつかれ、引き裂かれ、食われていく。

人々が逃げる時間を稼ごうと、自警団と思しき一団が奮闘していたが、多勢に無勢。数多いる魔物に蹂躙されていく。

先程までの平穏が嘘のような光景に、アルフレドは思わず息を飲んだ。


「ガアアアアア!」


呆然とするアルフレド達に魔物が襲い掛かる。


「チッ!」


それをフェンが蹴りで迎撃し、魔物の体を吹き飛ばす。

その音で正気に戻ったアルフレドとシャルロットは武器を構え直す。


「……気ィ抜くなァ、次くるぞォ!」


大小様々な種類の魔物がアルフレド達を狙って襲いかかってくる。


「……ほ、炎よ!」


シャルロットの魔法が蜂の魔物の体を焼く。

それに一瞬敵が怯んだところで、アルフレドとフェンが切り込み、魔物の数を減らしていく。しかし、減ったそばから、次々と追加されていく。


「くそ! 切りが無い!」


アルフレドが愚痴を零しながら、狼型の魔物を斬り伏せる。

その後ろから、熊型の魔物が剛腕を振りかぶり、アルフレドに向けて振り下ろす。

それをしゃがんでかわすと、フェンが魔物の喉元に貫手を放つ。


「グオオオ……」


苦しそうに呻く熊型の魔物の首に向けて、アルフレドは剣を振り下ろす。


「……み、水の弾よ!」


アルフレドの背後から群れで迫っていた鳥型の魔物に計5発の水弾が命中する。怯んだ鳥型の魔物に、アルフレドが剣を振るう。


「しゃがめェ!」


言われ、アルフレドが咄嗟にしゃがむ。アルフレドの頭上をフェンの足が通り過ぎ、風圧がアルフレドを襲おうとしていた狼の魔物を薙ぎ払う。

何体も魔物を倒していくが、その数が減っている兆しが見えてこない。


「……アルさん、あれ!」


唐突にシャルロットが声を上げ、指を指す。

アルフレドがその方向を見れば、逃げ遅れたであろう青年が棒切れを振り回しながら、魔物の群れを追い払おうとしている。その後ろには小さな子供が見える。


「シャルロット、援護を頼む!」


叫び、駆け出す。

青年の棒が弾かれ、魔物の凶刃が迫る。

青年が子供を庇うように立ち塞がる。


「……炎の弾よ!」


シャルロットの魔法が魔物の体を弾き飛ばす。

その間にアルフレドが青年の元まで辿り着き、魔物を斬り伏せる。


「早く逃げろ!」


アルフレドが声を張り上げると、青年は子供を連れて逃げ出す。

逃げた先に魔物がいないことを祈りながら、アルフレドは周囲を見渡す。


「……囲まれたか」


魔物の群れがアルフレドを囲み、唸り声を上げる。

おそらく、この群れのボスであろう巨大な熊型の魔物がのそりと出てくる。

グリズリーか……使えるな。

アルフレドは内心でそう思いながら、剣を構える。

グリズリーがその巨大な腕を振り上げ、アルフレドに向けて振り下ろす。

まっすぐに振り下ろされる一撃を紙一重でかわす。

そして、グリズリーの目を剣の柄で叩く。

グチュっと嫌な音が聞こえ、魔物が雄叫びを上げる。


「グ、ガ、アアアアアッ」


痛みに我を忘れたグリズリーが暴れ出し、他の魔物に向けて、その腕を振るう。

襲いかかってくるグリズリーに魔物達も混乱し、次々と同士討ちをしていく。

その隙を突いて、アルフレドはフェンとシャルロットの元へと戻る。


「えげつねェことしやがンなァ」


向かってくる魔物を蹴り飛ばしながら、フェンが言う。


「ですが、無事に戻ってきて何よりです」


シャルロットが安心したように言う。


「……しかし、切りが無いな」


魔物の攻撃を受け、剣を振りながら、アルフレドが言う。

倒した魔物の死骸が3人の周りに散乱している。

その数は時間を追うごとに増えていくが、魔物の数は一向に減る気配がない。


「そう言えば、フェン。ここへ来る前に臭いがどうとか言ってたよな?」


「あァ、言ったなァ」


「あれって一体、何だったんだ?」


「……トロルだァ。そら、来たぞォ」


言って、フェンが顎である方向を示す。

その方向に目を向ければ、棍棒と籠を持った、人間の3倍はある巨大なトロルがこちらへと向かって来ていた。

あのグリズリーが小さく見えるその巨体に、アルフレドは舌を打つ。


「……大きさはそれなり、か。厄介だな。ところで、あの籠はなんだ?」


アルフレドが言うと、他の2人もトロルの持つ籠に注目する。

籠は時々揺れたり、中から何かが呻く声が聞こえる。


「ま、さか……」


何かに気が付いたシャルロットが頭を振りながら呻くように呟く。


「あの中身って……」


絞り出すように、認めたくないと言わんばかりに言う。


「この、町の、人ですか……?」


言い切ったシャルロットにアルフレドは答えることができなかった。

それこそが、シャルロットの問いへの答えだった。


「……アルさん、フェンさん」


「ああ」


「おォ」


3人は武器を構え直すと、向かってくるトロルと相対する。


「シャルロット、援護を頼む! フェン、行くぞ!」


「はい!」


アルフレドが剣を構え、トロルに向かって突撃していく。

それを迎え撃つようにして、トロルの棍棒が振り上げられ。


「ゴアアアアアッ」


勢い良く振り下ろされる。

それを半身を捻ってかわすと、棍棒の上に飛び乗り、その上を走る。

まずは救助だよな!

アルフレドは籠を背負っている背負い紐を狙って、剣を振るう。

狙い通り、背負い紐が切れると、籠が地面に落ちる。


「ゴガ、ゴガアアアアア」


それに気付いたトロルが籠を拾おうと手を伸ばすが。


「させねェよ」


フェンの爪がトロルの腕を切り裂く。

木の幹のような太い腕に切り傷が走り、トロルが激痛に腕を振り上げる。

その隙を付くように、アルフレドはトロルの足の腱を斬りつける。


「ゴギャ!」


トロルが態勢を崩し、片膝を着く。

それでも、まだ残っている腕でアルフレドとフェンを捕まえようと動く。


「……炎の弾よ!」


しかし、シャルロットの放った5発の炎弾がトロルの頭に命中する。

叫ぶ暇すらなく、トロルの頭は黒く焼け焦げ、異臭を放つ。

しかし、まだ倒れず、目を剥いて、アルフレドに襲いかかろうとする。


「これで……」


掴もうと伸ばされた手を避け、腕を踏み台にして、トロルの頭を目掛けて、剣を突く。


「終わりだ!」


勢いのまま、アルフレドはトロルの頭に剣を突き立て、そのままトロルを倒す。

力なく倒れたトロルは地面に勢い良く落ち、辺りに地響きを響かせる。

それを見た魔物達は何かを察したかのように散り散りに、町の外へと逃げていく。

アルフレドはトロルの頭に刺さった剣を抜くと、血をマントの裾で拭い、鞘に収める。


「や、やったの、か?」


先程まで魔物と交戦をしていた自警団の男性の一人が呟く。

呟きに気付き、アルフレドが周りを見れば、トロルの死骸の周りに十数名ほどの自警団が集まってきていた。何人かは籠から囚われた人達を解放し、怪我の手当てを行っていた。

その中に銀色の影がちゃっかり混ざっていた。


「まだ分からない。それに気になることもある」


「気になる事……?」


「ああ、それは」


アルフレドが言葉を続けようとしたその時。


『ウゴオオオオオアアアアアア!』


聞いたこともないような咆哮が町の中に轟く。


「ま、さか……」


その咆哮にアルフレドは何もかも合点がいった。

多様な種類の魔物に連携を取る魔物の群れ、さらに退き際の良さ。

魔物の取る行動がどうもおかしいと感じていた。


「こっちは囮だったっていうのか……!」


「あ、アルさん……」


シャルロットがアルフレドに近づいて行き、不安そうに見上げる。


「……急ぐぞ!」


「はい!」


「俺達も行きます!」


「……チッ」


アルフレド達と自警団員は咆哮の聞こえた方へと急ぐ。

嫌な胸騒ぎをするのを抑えながら。





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