拗ねてしまった彼女は
「ごめん、笹原」
「…」
なぜ、そんな噂が立ったのか笹原が説明してくれた。少し拗ねながら。ここずっと一緒に帰ってたから、その時を誰かに見られてしまったそうだ。しかもこのロードで。それで俺と笹原の友達に伝わったらしい。
「…谷山が謝ることでもないと思う」
「笹原、そういう噂は嫌いだろ?」
「うん。嫌だよ」
自分自身の噂が、しかもそれが嘘というのは誰しも嫌だろう。それを笹原は人一倍に嫌う。中学時代に笹原が嫌われたのも嘘の噂が原因だからだ。
「もう待たなくていいよ。これ以上、誤解はされたくない」
「じゃあ、地元の駅で待ってる。それなら見られる可能性、低いだろ?」
「そこまでしなくても」
「お前、あんな暗い道を1人で歩けるのか?それに不審者だってあるし」
「…でも」
「そんなに嫌か?」
俺、なんでこんなに必死なんだろう。確かにこいつと話しながら帰るのはすごく楽しい、それに癒される。でも、こんなに嫌がられてるのにそれは得るべきものなのか?
「…ありがとう、谷山。じゃあ地元の方で待ってて」
「いいのか?」
「うん。だって前に2人で帰った時も変な人見たし。母さんも出来るだけ谷山と帰って来なさいって言うし」
「あ、そうだったの?」
意外。笹原ってそういうこと、母親とかに言わなそうだったから。いつも自分でなんでもしてるイメージだった。
「俺もそういうこと言われたらちゃんと否定しておく」
「ありがとう」
「…あの子に先輩のことは言ってないの?」
「うん。根掘り葉掘り聞かれたくないし」
「友達なんだから……ごめん、そういうことか」
「そう、だから私は何も言わないの」
笹原が中学時代に嫌われたのは友達が原因だった。笹原が少しミスをして、それを笑って誤魔化したのが始まりだった。もちろん、笑って誤魔化したのも悪いがそれで悪口を言い始めるのもどうかと思う。で、その悪口に少しばかりの嘘が混じっていたのだ。
「谷山のこともある程度、秘密にしてたのに」
「そうだったのか。いつも待ってて悪かった」
「ううん。別に谷山と話すのは楽しいから全然いい。でもやっぱり」
「分かった。今日はあれだ。肉まんでも奢ってやる」
そう言った瞬間、少し拗ねていた笹原はにっこり笑ったのだ。