猫を被った彼女は
放課後。部活が終わり、いつも通り笹原を待っていた。階段下のベンチに座りながらさっき買ったコンポタを飲んだ。じんわりした暖かさがお腹に感じる。
「あれ?それはゆうたの分じゃねーんだ」
「いつも奢ってるとは限らないよ」
「へー」
考えてみるとたかられる度に奢ってる。笹原に甘いというわけではない。他の奴にだって奢る時は奢る。というか、笹原だってたまに奢ってくれることもある。そう、またに。
「あ、谷山くん!立花くん!」
「お?松川じゃん」
「ゆうたね、照明の仕事があるから遅くなるって」
「先に帰ってろってこと?」
「だと思うけど…そうするとゆうた、この道を1人で歩くんだよね」
高校から駅までのロードは前にも言ったが20分。しかも車通りも多いわけでもなく街灯が少ない。だから不審者が出た…なんて報告は1ヶ月に1回はある。
「…じゃあ、俺残るよ」
「でも何時になるかわからないよ?先輩と作業してるし」
「先輩?」
「もしかして、ゆうたに告ったっていう」
「そう。でもその先輩は、チャリ通だしゆうたとは帰る方向、真逆だけど」
そんなこと言われたら余計に残る。あいつが前に告白された男子と帰るなんて……いや、別に悪いことじゃない。なんで俺は、こうも意地を張って残ろうとしてるんだ?確かに帰り道が心配だけど。
「ほら、俺とあいつ同じ駅だしさ。駅からも似たような道を歩くし」
「そっか…。じゃあ、ゆうたをお願い!」
「俺も松川も帰るからな」
「おう。じゃあまた明日」
あ、もうコンポタ飲みきってしまった。そうなるとまた少し寒くなるな。追加で買うのも気がひけるからおとなしく待っていよう。
「お、谷山じゃん」
「おう、お疲れ…って彼女連れかよ」
「言っただろ、朝。彼女ができたって」
「いや、聞いてたけど」
にしてもそいつの彼女、見たことあるんだよな。今日の朝、写真見せてもらった時から結構な時間、考えてたんだけど全然思い出せない。というか、どこで見たのかも分からない。でも見たことあるんだよな。
「あ、ゆうた!」
「お疲れ!…って谷山」
あー思い出した!笹原と同じクラスでよく笹原といる子だ。少し小さくてふわふわした子、忘れるわけないよ。そうそう、前に笹原が写真見せてくれたんだ。
「なんでいるの?」
「ゆうたったら〜。照れちゃって」
「え?なんのこと?」
「お前とその子、付き合ってるってるんだろ?いつ言うのか気になってたんだぜ?」
「違うって私ちゃんと言った。でも、信じてくれない」
「笹原…」
俺はちゃんと分かってる。笹原がどうしていつも友達に話す口調じゃなく、俺と話す時の口調になっているか。笹原は猫を被るの上手だ。でも、今はそんな猫なんて被ってたら噂が流れてしまうからだ。その言葉遣いに笹原の友達が少しびっくりしていた。
「ま、お二人はリア充なんだから早く帰りな」
「おう。じゃあな」
「またね、ゆうた!」
「うん」
なんて笹原に声をかければいいのだろうか。一体、傷ついてるのか否かも分からない状態なのに。迷っていたら笹原が口を開いた。
「帰ろ。疲れた」