強気でまっすぐな彼女は
さっき中川からラインが来た。笹原に告白したという内容だった。どうなったかは書いてない。その辺りがなんとも言えず俺は少し恐くなる。
「お、きたぞ。…今日なんだろ」
「いや、えー」
心が弱くなる。笹原の名前の気持ちが足らない。俺はそれを生産スピードが速いわけじゃないから。
「よ、谷山」
「お疲れ」
「…そっちも」
笹原の手には紙袋がある。あれは中川が持ってたものだ。ホワイトデーだから告白したんだろう。俺もそれにあやかる身だからなんとも言えないが。
「立花くーんと谷山くーん」
「桜子、遅いよ」
「だから!ゆうたが!速いの!」
いつもみたいにガヤガヤしながら高校のロードを歩く。笹原は少し歩くのが遅いから俺が合わせる。前の2人は自由に歩いてる。早かったり遅かったり。
卒業した先輩の話や次の大会の話、クラスの話、打ち上げあることや担任の先生に子供ができた話。他にもたくさんの話をした。
「あ、谷山。あっち着いたらコンビニ行こう」
「いいけど」
「今日は駅前のに行かないの?」
「あっちのコンビニに用があるんだ」
松川さんは
「電車くる!」
といって先にホームにいってしまった。そしたら
「俺、駅向こうに用あるから」
といって立花も帰ってしまった。
「今日は静かだね」
「だな、いつも賑やかだもんな」
「谷山は私以外にチョコもらったの?」
「…クラスの女子から。まあ、みんなへって感じだったわ。1人1つアルフォート」
「まさかのアルフォート」
2人でこんな風に電車を待つのは久しぶりかもしれない。前に鼻血を出して帰った時以来だ。なんだか変にドキドキしてきた。
「あ、電車くる」
「今日はあんま寒くないな」
電車に乗るとふわっと暖かい空気が流れてきた。所定の位置につくと最寄駅に向かって発車する。
目の前に奴らがいた。中学時代のサッカー部だ。車両を変えようにもバッチリ目があった。笹原も少しビクビクしてるのを感じる。
「よーお!谷山と笹原じゃん」
「やっぱ付き合ってたんだなー!面白すぎでしょ」
「ちょ、写メ撮ろうぜ!どうせ俺ら最寄一緒なんだしさー」
「同中メンバーってことで!」
ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。後ずさろうとするが俺には嫌な記憶しか湧いてこない。
ここで逃げたら同じことになる。笹原は中川に助けられ、俺は逃げたあの日と同じ。だから何か言わないと、このままだと笹原が傷ついてしまう。
「付き合ってるよ」
後ろを振り向いたら笹原は、あいつらをまっすぐ見てそう答えた。何か言おうと俺が口を開けようとするとそれを制するように言葉を続けた。
「それのなにが面白いの?」
「は?だって中学の時あんなことあった2人が付き合ってんのウケるじゃん」
「へー。その発想にウケちゃう」
「…笹原、もう」
「でも、あんたらの頭の中身の方がもっと愉快でウケちゃうわ」
「…喧嘩売ってのか?笹原」
「ええ、売られた喧嘩をしっかり買いましたけど?」
こんな強気の笹原を初めて見た。いつの間にか俺らは手をつないでいた。少し震える笹原の手を俺はしっかり包んだ。
ずいぶん前に言ってたことがある。
「私はお前をいじめた相手を許さない。だから喧嘩を売られたら買う」
臆病な笹原は正義感がとても強いまっすぐな女の子だった。きっと高校じゃそんなところがモテるんだろう。みんなそんなところにしか…そんな細かいところにも気づいていたのだろう。
男の俺は笹原に守られてしまった。そんなこと今はきっと俺しか思ってないのだろう。
「…お前!」
「私はあんた達と口喧嘩なら勝てるわ。あんた達は暴力で解決したいんでしょ?」
「話がよくわかってんじゃん」
「だったら今ここで殴れば?ここなら電車内で少なからず目撃者もいる。どっちが不利か足らない頭で考えな」
周りを見ると会社帰りのサラリーマン、他校の生徒、OLなど様々な人がこっちを見てヒソヒソ話したり携帯をいじってツイッターで投稿してるような人もいた。ここの場で手を出したら明らかに向こうが不利だ。女の子に手を出した、それだけでも。
サッカー部の奴らは苦そうな顔をして別の車両に移っていった。
「笹原」
「前から頭にきてたの。今回のことで綺麗サッパリした」
「…助けてくれてありがとう」
「他のことで守ってくれるんだから」
停車駅に着いた。笹原は軽やかに車両から降り途轍もなくご機嫌だ。定期を通してコンビニに向かった。
「奢ってあげる」
「は?」
今日はどこからの風が吹いてるのか、とんでもない振り回し方だ。
「いつものお礼」
「いや、むしろ俺が奢る」
そう言って笹原の好物のシュークリームを手に取りレジに向かった。さすがに今日は助けられた。俺じゃあんな風にまっすぐとは言えない。
「帰ろ、笹原」
「うん」
そう言っていつもの帰り道に向かった。




