くすぐったさを感じた彼を
「これにて卒業式を閉式いたします」
パチパチという拍手。今日はホワイトデーかつ卒業式。毎年ホワイトデーに被るらしい。嫌がらせなのかそれとも幸運なのか。
「そろそろ照明消すかな…」
ミュージカル部はこういう式典の時、体育館の照明を担当する。音響は古橋先輩と放送委員の子たちがやってる。私は1人。なんだか寂しいけどこんな風に上から式典を見るのは楽しい。
「お、のろ。お疲れ様」
「お疲れ様です、先輩」
「ずいぶん慣れたな。最初はフェーダー触るのだってビクビクしてたのに」
「褒めても何も出ませんよ」
「…同級生に告白されたんだってね」
「なんで知ってるんですか!?」
どうやら桜子が話したらしい。あの野郎、余計なことをこいつに言いやがって。目の前でニヤニヤした顔をしながらこっちを見てる。その顔、殴ってやりたい。
「俺が告白してから、のろは俺のことを恐がってたから。もしかすると男の人が苦手だったのかもって。そしたら悪化させたかもしれないなって思ってたんだよ」
「まあ、そうですけど」
「ごめん。でも、俺みたいなのばっかりじゃない。本当にお前のことが好きなやつもいるんだ」
「その子とは別に」
「その子じゃない子の話だよ」
また放課後と言わんばかりに去って行ってしまった。中川くん以外にそんな子いないじゃん。他の誰の話をしてるのかな。
照明卓から下に降りた。ちょうどクラスの子と合流した。みんな泣きそうな目をしていた。先輩のことみんな好きなんだね。
ミュージカル部の卒業する先輩は2人。どっちも役者さんだったからそこまで関わることなかったけど、あの2人の演技を見なかったら私はきっとここにいない。
演目はある有名演出家の作品。4人劇でそのうち2人は卒業する先輩だった。最初は違う部活に入る気だった。中学でやってた剣道か、小学生までやってた水泳か。演劇は中学の文化祭でチョロっとやったから気になってただけ。
でも、あの2人の演技に心を奪われてしまった。
「あ、ゆうたー。今日、ホームルーム無視して速攻部室ってさ!」
「ありがとう、桜子」
こうやって素敵な仲間に会えたこと感謝しないとだ。
「お疲れ様」
「あ、ありがとう」
通りすがりの谷山にそんな言葉をかけられる。嬉しいようなくすぐったさ。
あれ…私前にもこんなことがあった。谷山に「お疲れ様」って言われて嬉しくてくすぐったくなった…。
「いつのことだったかな…」
「ゆうたー!早くー!」
「あ、ごめん」
大声でクラスの子に呼ばれた。とりあえず、リュックをとったら速攻だ。多分、速攻するのは先輩が部室に来るからだろう。どの大学に行ったか報告会だ。それまでの間にきったなーい部室を綺麗にしないと。
「今日はホームルームなし!このまま部活でも帰宅でもいいってさー」
ホームルーム委員が叫んでる。私は今教室ついたのに、お仕事早い。私も早くリュックを担いで4階まで上がらなきゃ。
ぽてぽてと階段を上がろうと3回まできたら、見たことある男の子がスマホをいじっていた。鼻筋が通ったみんなが言うイケメン。
「笹原さん」
「あ、中川くん。部活?」
「あのさ、すこし話できない?今じゃなくていいんだけど」
「今なら大丈夫だよ」
「なら屋上にいこう」
階段の途中で中川くんに会った。手に紙袋を持ってる。あ、ホワイトデーのお返し?ならここで渡してもいいのに。
「中川くんは先輩とお別れ会とかないの?」
「あるよ。俺ら、今日は校庭が後半だからしばらく暇なん」
だから今がいいみたいな顔してたのかな。私にはよくわからないんだけど。急いで部活ラインに遅れることを伝えた。
「寒いね、まだ」
「屋上は風が通るからな。笹原さん大丈夫?」
すこしでも日が当たるところに移動した。風がスカートで、ひらひらひらりと膝で遊んでる。空は少しだけ雲がある。屋上はいつもこんな感じだ。
「バレンタインありがとうね。美味しかった」
「そう言ってくれると嬉しい。結構手抜きしてたから」
「これ、お返し。谷山みたいに3倍には返せんかったけど」
「気にしないで?」
その時、急に風が強くなった。そのあと、中川くんが言った言葉はあまり聞こえずになってしまったが。




