いじめられていた彼は
「電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください」
奢ってもらったピザまんを食べきり、ゴミをポケットの中に入れた。よくやる癖、直したいんだけどな。地元の駅にゴミ箱があるからちゃんとそこで捨てないと。
「笹原、来年なにとるの?」
「科目?地学基礎と日本史」
「まじか。俺、地理と音楽だから全然違うな」
「来年も違うクラスだね」
来年以降は文系理系がなんとなく決まって、クラスもそれらしくなってくる。選択授業ごとにクラスが別れるから、谷山と同じになるということはありえないだろ。
「教科書の貸し借りもできなくなるね」
「日本史忘れたって言われても貸せないからな」
「わかってるよ」
電車が到着して車両に乗り込んだ。いつものドアの前に立って発車を待った。
「笹原、少し離れてもいいか?」
「え?」
「…サッカー部だった奴がいるんだ」
サッカー部。谷山が中学まで所属していて、部長を務めていた。そして、そこで谷山は酷いいじめにあった。今でも中学で同じ部活の奴らに会うと胃が痛くなるらしい。
「わかったよ。じゃあ駅で」
「おう」
ひさびさに1人で電車にいる。いつも谷山がそばにいて何か話をしてるから。そんな谷山は隣の車両。できるだけ目立たないように立っていた。そんな私にサッカー部だった奴らが話しかけてきた。
「お?笹原じゃーん!」
「…」
「お前どこ高だっけ?確かさ、谷山と同じだったよな」
「…」
「っておい、無視すんなよー」
無視はしてない。イヤホンで音楽聴いてるから聞こえてない。イヤホンを外すつもりもさらさらない。でも、本当はすごく恐い。サッカー部だった奴らのほとんどはあまり評判のいい高校には行ってない。なかには夜間の学校に行きながらバイトしてる奴もいるらしいけど。
「笹原ってさーまだあいつのことが好きなん?」
「お前、それは冗談すぎるだろ!まじウケるわー」
「一時付き合ってたんだろ?もうまじで爆笑ものっしょ。で、どうなん?」
視界が少しぼやけてきた。でも、ここでなにか問題を起こしたらどうなっちゃうかわかってる。だから、じっと耐えよう。もう少しで駅に着くんだから。
「谷山もお前のこと絶対好きだっただろうによー」
「それいじってやりたいわー」
「で、付き合って」
「車内でギャーギャーうっさいんだけど」
びっくりして顔を上げると、私をかばうようにして見慣れた制服の男の子が立っていた。校章の色は私と同じで緑色、同学年だ。スラッと身長が高くて整った顔をしてる。
「お前、こいつの知り合い?いやー悪いんだけど俺ら、こいつに用があるんだわ。そこどいてくんない?」
「笹原さんそうなの?俺には君をいじめてるようにしか見えなかったけど」
「え、えっと」
その時、電車のドアが開いた。最寄りまではあと一駅。邪魔にならないように一旦、外に降りた。
「笹原さん確かここが最寄りだよね?またね」
「え、あの…」
「またね」
笑顔で手を振る彼にあっけにとられてるとドアが閉まってしまった。ふと辺りを見回すと見慣れた顔がそこにいた。
「笹原、大丈夫か?」
「谷山」
「あれ、俺の友達。偶然車内にいたから助けてやってくれって頼んだんだ。驚かして悪い」
涙のたまった目を見てタオルを渡してきた。私が涙を拭いてると、谷山が私の大好きなミルクティーの暖かいのを買ってきた。
「恐がらせてごめんな」




