男子嫌いの彼女は
「まあ、今日は部活は早退ね」
保健室に連れてかれ、鼻血を出した俺に向かって先生はそういった。ついてきた笹原は身長を測ってた。相変わらず自由な人だ。
「荷物とってくるよ。谷山は待ってな」
「あ、ありがとう」
なんだ、話を聞いていたのか。全然聞いてないと思ってた。さらりと保健室から出て行った。
「笹原さんとは彼女?」
「いや、友達です。部活も違うんですけど、体育館で作業してて」
「なんだー。笹原さんまたに保健室くるのよ。胃が痛いって湯たんぽもらいに来るの」
「へー」
胃が痛い…。そういえばよくお腹を押さえてるのを見るな。そういうことだったのか。偏頭痛があるのは聞いたことあったが、胃痛があるのは知らなかった。
「ただ、ここのところ頻度が増えたのよ。何か知らない?」
「いや、知りません」
「精神的なダメージで出てる胃痛だから、少し心配。ストレス性の胃痛は最悪、胃に穴が開くこともあるの」
今の笹原にそんなストレスがあるなんて、全然分からない。確かにクラスも違うし部活も違う、帰り道で話す程度だけど。そんな素振り、見せたことがなかった。いろいろなことを話してくれるが、なぜか重要なことは話してくれない。…そりゃそうか、ただの友達だから。
「谷山、持ってきたよ」
「ありがとう、ってお前なんで制服に着替えてんだよ」
「鼻血出しただけだろうけど不安だから私も帰る」
「先輩はどうするんだ?1人で作業させるのか?」
「させる」
「部活になんて言ってきたんだ?」
「友達が鼻血ブーなので帰りますって」
自分と俺の荷物を持った笹原は、訴えるような目で言ってきた。大好きな照明を触れるチャンスなのに、なぜ帰りたがるんたろうか。俺が心配だからって理由だけじゃないだろう。
「…分かった」
「先生、また今度来ます」
「はーい。気をつけてねー」
ドアを閉めた瞬間、笹原はお腹に手を当てた。顔がしかめっ面だ。多分、さっき言ってた胃痛なのだろう。
「笹原?」
「無理、先輩が恐くて一緒に作業なんてやっぱ。私、これでも頑張ったの。告白されたこと忘れて前のように振る舞うって。でもね、明らかに向こうが告白してから私を違う風な目で見る」
「笹原、落ち着こう。な?ここには先輩もいないし」
今にも腰が抜けそうな笹原を、保健室近くにある階段まで連れて行き、ゆっくりと座らせた。近くに自販機があったのを思い出し、笹原の好きなホットミルクティーを買って渡した。
「ごめん…」
「いいから。…先輩の目が変わったって?」
「なんか…特別扱いしたり、後輩じゃなくて女の子として見てる気がして。肩とか触る頻度も増えた」
「そっか…。大丈夫か?」
「…耐えられないかも」
胃の痛みの頻度が増えたのはそれなのかもしれない。笹原のトラウマはあまりにも傷を残し過ぎている。このままでは、男子嫌いが余計に悪化してしまう。それはあまりいいことではない。せっかくの高校生なのに。
「落ち着いたら帰ろう」
「…ありがとう」
俯いていた笹原が鼻をすすった。多分、泣いているのだろう。強がりなのに、弱いところを見せないように頑張っているのに。でも、限界がくると泣いてしまう。一回、笹原が舞台の照明で失敗した時も帰り道、泣いたことがあった。
頭を撫でてあげたいが、これ以上男子嫌いを悪化させたくないがため、その手は自分の膝の上に置いたままだった。




