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オレンジボレロ

「三井は勉強して帰るのか?」

「まあな。お前も一緒にどうだ?」

「いや、俺はちょっと用事があって」

「おお、もしかしてデートか?」

「さあ?」


 三井が疑うような視線を俺に向ける。


「……立花とちょっとな」

「え!」


 三井がわかりやすく立花の方に顔を向けたので俺は急いで止めた。


「おい! いつの間にそんなことになってたんだよ? 俺全然知らなかったぜ?」


 小声で俺を問い詰めてくる。言わなければ楽ではあるのだがこれ以上三井に何も言わないのは卑怯な気がした。工藤さんのことを包み隠さず報告してきた三井、今ならそれがどんなに恥ずかしいことかわかる。


「悪い、でも恋人とかじゃないから。ただちょっとお互いに近付いた感じがする。俺、多分立花のこと好きだ」


 三井は茶化さずに俺の話を聞いていた。


「今日、気持ち伝えてみるよ」


 三井は眉間を人差し指で擦りながらちらっと立花の席に視線を動かした。


「待ってるぜ、立花。さっさと行って来い。事後報告忘れんなよ」


 三井は俺の席から離れ、鞄を持つとそのまま教室を出て行った。俺も自分の鞄を持って立花の元へ向かう。


「行こう」

「うん」


 2人で廊下を歩く。自分の右隣を自分より少し小さい女子生徒がひょこひょこ歩いている、それだけでなんだか色々なものがいつもと違った。今日の夕焼けは晴天のせいもありいつもより黄色く、濃いクリーム色をしていた。青い廊下が照らされて、でも色は交じることなく別々に感じられる。


「ねえ」


 立花が言った。


「何か校舎の雰囲気、いつもと違くない?」

「俺も思った」

「やっぱり?」

「でも多分それって精神的なものだろ」

「うん。何ていうか……周りの景色が絵みたいに見える」

「立花は詩人だね~」


 下駄箱で靴を履きかえる。俺は立花の様子を窺ったが、いつものようにつま先で地面を叩かない。


「あれ? つま先は?」

「ば~か、もうやらない」


 早足に校舎の外へ出て行ってしまった。俺も追いかける。


「じゃあここで待ってる」

「何を?」

「高橋をだよ。自転車取って来るんでしょ?」

「え? 立花後ろに乗らないの?」


 立花にとっては予想外の言葉だったのだろうか、驚いた様子で鞄を両手で持ち替えた。


「2人乗り?」

「歩いて行くより早いだろ。まあすぐ近くだけどさ」


 立花は少し考えている様子だったが俺が自転車置き場へ歩き始めると後ろからゆっくりついてきた。


「やったことある?」

「無いよ、2人乗りなんて……」


 俺は自転車に跨り後ろの荷台を指差した。


「ここに座って。それで後ろから」


 ここでようやく気付く。俺、今結構大胆なことをしている? 2人乗りをするにはどうしても後ろの人間が前の人間の体に掴まるようにして座らなければならない、男友達とやるのとはわけが違う。


「ああ、やっぱりやめようか」


 ガタッと自転車が揺れる。背中に立花の気配がする。


「今更何言ってんの」


 立花の両手が俺の腹に回ってきて、何だか頭がぼーっとしてきた。


「それじゃあ行くぞ」

「うん」


 自転車のペダルの重みは2人分だったが、相手が立花では少し重めの荷物が括り付けられているようなもんだ。

校門を出てゴミ処理場へと向かう。冷たい風で体の表面は冷たいのに背中はぽかぽかと暖かかった。赤みを増していく空、立花はそこに流れる一際大きい雲を指差しながら無邪気にはしゃいでいた。


「凄い、こんな場所あったんだ……」


 狭い道から一気に広い空地に出た時、立花は感嘆の声を上げた。


「言っておくけどここのこと話したの、立花が初めてなんだぜ?」


 自転車のスタンドを立ててから振り返ると立花は地面に大の字に横になっていた。


「立花さん、何やってんの?」


 すーっと鼻から息を吸い込んでふーっと口から吐き出す、立花はじっと高い空を眺めていた。


「高橋もやりなよ」

「……よし」


 立花の隣に寝転ぶ。視界一面が夕焼けに染まり、金木犀と立花のシャンプーの匂いがする。冷たい地面に抱かれながら安心感で胸が一杯になる。


「あ、あれ!」


 立花は上半身を起こして煙突のすぐそばを流れるオレンジ色の小さい雲を指差した。


「あれがどうしたの?」

「もうすぐ重なる」


 夕焼け空をもう消えそうになった小さい雲が風に流れて、丁度煙突の裏側に隠れた。それはまるで今煙突の天辺から吹き出した煙のように見えた。風景を遮断するだけの煙突が一瞬の中に生まれた雲の衣装を纏って、初めて可愛らしく見えた瞬間だった。


「夕焼けもいいね」

「え?」

「曇りもいいけど夕焼けも好きになれそう」


 立花は指で煙突の輪郭をなぞり、まるでその瞳に夕焼けの色を染み込ませているようにじっと動かなかった。俺も黙って立花の隣に寄り添いながら遠くへ飛んでいく一羽のカラスを眺めていた。


 ゴミ処理場から発せられる機械の低い唸り声が、今日はなんだかボレロのように軽快に耳まで届いてきた。







長い間ご愛読して頂き、有難うございました。

これにて小説『オレンジボレロ』は完結になります。この小説は僕が人生で初めて完結させた小説でもあります。


小説を書く時はよく行き詰り、続きが書けないまま放置してしまうことが多いのですが不思議とこのオレンジボレロにはそういったことが無く、最後まで楽しく書き続けることができました。


事件だったり事故だったり、戦いだったり修羅場だったりと小説には見せ場のようなものが多々ありますがこのオレンジボレロには最後まで特に大きな事件も無く、淡々と進んでいく物語のため読む方にとっては退屈と思われるかもしれません。


ですが現実においてもきっとそんなものだと思います。普通の日常、ぼんやりとした生活、そんな積み重ねが気付いた時には掛け替えのないものとなっている、僕はそう思います。


と、偉そうなことを語ってきましたがやはりこの小説、かなり荒削りな部分があります! 「立花途中からキャラ変わってね?」は禁句ですよ!(笑)


最後にこの小説を読んで下さった皆様、本当に有難うございました。

『オレンジボレロ』という小説がほんの少しでも皆様の心を懐かしく、甘酸っぱくさせる手助けが出来たなら、著者としてこれほど嬉しいことはございません。


長くなってしまいましたがこれにて後書きを終わらせていただきます。

ご愛読、有難うございました。


著:路傍の石

2013,10,12



※小説内に自転車の2人乗りの場面が出てきますが、この行為は現在法律で禁止されています。ストーリー上止むおえない演出であるため、改変はせずにそのまま掲載させていただきました。実際に行うと危険&注意を受けることがありますので真似しないで下さい。

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