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隣の席 2

「教室に戻って来た時だってそう、彼氏を待ってるって言ったけど理由なんてなんでも良かった」


 俺はコーンスープをすすりながら黙って立花の話を聞いていた。


「高橋が待っててくれた日だって、本当は嬉しかったけどもうテンパっちゃって、先に帰っちゃった。だから今度は勇気出して理科室に誘った」


 立花のポーカーフェイスには驚かされる。あの時は俺自身が1人で空回りしているという考えしかなかった。


「でも、何で俺なんだよ?」

「1年の頃、隣の席になった時から高橋のこと気になってた」

「え?」

「覚えてないんでしょ? そうだよね、きっとそれが普通」


 立花はサラダサンドの最後の一口をぽいっと放り込むとフィルムを丸めてビニール袋の中に入れた。水筒のお茶を飲んで一息入れる。


「私、あの頃からちょっと友達とぎくしゃくしてて、あの子たち私が描いてた絵をクラスの皆に見せびらかしてた」


 飲み終えたスープの容器にカツサンドのフィルムを入れて、立花のビニール袋もまとめて入れてやった。


「いいよ」

「後でまとめて捨てるから、気にすんな」


 立花は二、三度頭を掻いてからへへっと子供の様に笑った。


「それで?」

「うん、それでさ。こんな絵描いてるんだよ~って、大体の人はそれ見せられてキモいとか怖いとか言うわけ。私は表向き笑ってるけどさ、辛くて嫌だった。自分が馬鹿にされてるのが辛いっていうよりこんな人たちを友達だと思ってる自分の浅はかさって言うか……そういうのがむなしくて」


 相変わらずグラウンドは賑やかだったが俺と立花の間には静かな時間が流れていた。今、立花は俺に対して本当は言いたくないような、言う必要のないようなことを懸命に打ち明けている。立花の心を感じる。


「でも高橋は私の絵を見て言ったんだ。上手いじゃん、って。漫画家みたいだって」


 俺がそんなことを? 立花には申し訳ないがどうやっても思い出せない。何の考えも無く、波風が立たないように口から出した言葉だったんだろう。でもそんな何でもない言葉を立花は覚えていた。


「高橋にとっては凄くどうでもいいことだったかもしれないけど、私それ聞いて何か感動しちゃって。無理して友達と付き合うより変人扱いされても1人で居たほうが良いって思った」


 それって逆に言うと俺が立花を一人ぼっちにさせたってことじゃないのか? 素直に喜んでいいことなのかわからない。


「何か俺気付かない間に結構重要なこと言ってたんだな」

「高橋は結構そういうところあると思う。気を使ってるわけじゃないのに自然に優しさが出る。それだってそうだよ」


 立花は俺のカップスープを指差した。


「私には出来ないこと。いや、出来る人のほうが少ないかもしれない」

「そうかな」


 ふと坂井の言葉を思い出した。一緒に帰ろうとか、一緒に練習しようとか、そういう何でもない言葉と態度を坂井は好きになったって言ってたっけ。俺って実は結構良い奴だったのか?


「今日の放課後、暇?」


 立花が言った。


「おう」

「ゴミ処理場の裏、行きたいな」

「わかった」


 立花の耳は真っ赤に染まっていた。立花は照れると顔よりも耳が赤くなるタイプらしい。感情が表に出にくい、少し羨ましかった。




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