夕焼けに照らされて
著作権の関係でドラいもん表記になっております。
午後5時過ぎ、俺は職員室の前にいた。
数分、呆然と立ち尽くした俺ははっと我に返った。
たっぷり一時間近く説教された。最後のほうには日本の情勢にまで話が飛び、俺のような奴が病原体なんだみたいなことを言われたような気がするがはっきり言って良く覚えてない。永遠に近い1時間、不毛な1時間。
廊下ですれ違う4組の生徒に心配され、俺は笑顔で「大丈夫じゃない」の一言を返した。女子生徒からの声掛けには「ああ、あんなの何でもねーよ」みたいなことを言った気がする。馬鹿だ、俺は。
教室に着くと自分の机に突っ伏した。窓の外からは陸上部の奏でる生き生きした音が聞こえる。ランニングの掛け声は時々何を言ってるのかわからないが、不思議と心地がいい。ずっと聞いていると流しっぱなしのラジオのような安心感があった。
机の上でしばらくそのままだった。気分は軽い。やっとポマードから開放された。しかしすぐに家に帰る気分にもなれない。
教室には俺の他に誰もいない。黒板にドラいもんだが、どこかドラいもんでないものが描かれている。
筆跡からして女子だろう。特有のパーツの小ささと中心に集まる傾向が見て取れる。ドラいもん? は寄り目だったが不思議と俺を見つめているようで外から入る黄色い光がドラいもん? を何処か格調高く彩った。
「高橋、どうだった?」
誰もいないはずの教室から声がしてガタタンと椅子を鳴らしてしまった。立花だった。立花は俺の横の席に座るなり、さっと足を組んだ。情けない話ちょっと視線を上下してしまった。
「どうでもないし。立花は何してんの?」
「えっと、彼氏の帰りを待ってるわけ」
彼氏がいたのか、うわ、なんだこの気分は。
別になんとも思ってないのに敗北感。
「うぜー」
「高橋は彼女いないの?」
「いる」
「え! 誰?」
立花は身を乗り出して聞いてきた。
「ごめん。嘘」
立花は頬を吊り上げて鼻で笑った。
「ダメじゃん」
ダメじゃん、何だそれ。何だその力の抜ける一言は。
「立花みたいな奴でも彼氏できるんだな」
特に意味も無くそんなことを言った。
「失礼な奴、こう見えて私モテるんだから」
一部の奴には、な。
「っていうか何で急に俺に話しかけたわけ?」
「え?」
「そんな親しくないじゃん、俺ら」
「別に理由なんてないから安心して。暇だっただけだよ」
「俺は暇じゃねえ」
机に突っ伏しながら言っても全く説得力はない。
自分で言うのもなんだが俺は相当惚れっぽい。立花と話しているとなんとなく安心する。こいつにはなんていうか飾らない感じがある。ただ彼氏持ちの女になんぞ興味は無いがな。
「その体勢でよく言うわ」
立花は立ち上がって窓際の壁に背中を預けた。夕焼けのオレンジ色が立花の瞳に反射している。絵になるな、と思った。このままもう少し雑談するのもいいかと思ったが、途中で彼氏登場なんて最高に冷めるパターンになるのは目に見えている。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
「もう帰っちゃうの?」
そんなことを言われたら少し躊躇するだろう。でもここは帰るべきだ思った。
「おう」
「じゃ~ね~」
俺は革鞄を机から取り片手で肩に背負いながら教室を出た。立花は俺に軽く手を振ってまた窓の外へ視線を移した。
廊下の乾いたワックスのせいで上履きが何度か引っかかりそうになる。階段を降りる音もこの時間だとやけに高く、大きく響く。
やったこともないタップダンスの真似をして音を立てていると、知らない生徒が階段を上がってきたので急いで止めた。ちょっと耳が熱くなった。何てダサい。




