工藤さん! 2
目の前であっさり撃沈する男子生徒の姿を見て普通なら意気消沈しそうなものだが三井は工藤さんに彼氏がいないことがわかっただけでも儲けたと思ったらしい。
「もしかしてそれで満足して帰ったんじゃないだろうな」
「まあまあ、話を最後まで聞けよ」
三井は考えた、これは逆にチャンスなのではないかと。仮に成功率が50%だったとして、1人フラれたなら2人目は成功する、そんな数式が三井の頭の中に浮かんできた。
そもそも成功率50%はどこから来たのか? 更に50%の事象を2回繰り返せば1回は成功するという小学生レベルの思考、とんでもない話だが三井はそこのところには全く触れずに話を続けた。
今しかない、告白に意欲を削がれたのか、教材を鞄に仕舞い始めている工藤さんに思い切って声を掛けた。
「工藤さん!」
工藤さんが振り返る。
「あれ? 三井君……だっけ? どうしたの?」
「えっと……」
もたもたしていてはさっきの生徒の二の舞、単刀直入に言葉をまとめた。
「俺、工藤さんのこと好きなんだ」
工藤さんは一瞬動きを止めたが、ため息まじりに再び鞄に勉強道具を仕舞い始めた。
「ごめんなさい。私そういうのは……付き合うとかできない」
頭に浮かんでいた法則が音を立てて崩れ始める。三井は焦った。
「そ、それは、理由は?」
「私国立目指してるの。部活もあるし、恋愛をしている時間が無いの。こんなこと言いたくないけど今日3人目よ? 皆もっと他にやることないの? 三井君だって来年受験生だよ? 大丈夫なの?」
工藤さんによる説教を受けた時、三井は何も考えられなくなった。ただ目の前には憧れの工藤さん、化粧か香水かわからないが良い匂い、揺れる毛先のカール、そんな状況で決死の一言を放った。
「じゃあなんでそんなに綺麗なんですか!」
俺は思わず電話を持つ手を耳から離した。聞いているこっちが恥ずかしい。あの三井がそんなことを言うなんて想像できないし、想像したくもない。きっと三井はほんの一瞬にしろ、自分のキャパシティを超えてしまったんだろう。
いつもクールな工藤さんだがその時ばかりは目を丸くしたという。そりゃそうだ、今時安いトレンディドラマでもそんな台詞は使わない。
「やめてよ、別に、綺麗なんかじゃない」
工藤さんは言葉に詰まった。三井も言葉を探した。
「ごめん、もう帰るから……」
教材を鞄に詰め終えた工藤さんが席を立つ。まさかこれで終わってしまうのか、携帯を握る手に力が入る。
「工藤さん!」
さっきからやたらと叫んでいるようだが本当にここは図書室なのだろうか?
「俺、工藤さんが好きだから勉強の邪魔はしたくないし、諦める。でも受験が終わったらまた告白するから、その時は忙しいって以外の理由でフッて下さい」
ああ、三井らしいなと思った。こいつは飲み物で言えば炭酸飲料みたいなものだ。のど越しが良くて後味を残さずすっと引く、でも少しするとゲップが出てきて思い出す。ちょっと汚い例えだったが、この例えの安っぽさも三井に合っている。
三井の告白は結果的に失敗に終わってしまったようだ。




