二人の日曜日
休みは日曜日に突入した。今度は朝の10時に起きて、パンの朝食を済ませる。昨日とは違い、外へ出かけることにした。
行き先は最近出来たばかりの県内最大級と言われるショッピングモール、自転車で10分くらいの距離にある。
「それじゃあちょっと出かけてくる」
「行ってらっしゃい」
道路の渋滞を尻目に晴天の下自転車を走らせる。家のすぐそばに巨大なショッピングモールが出来たことは嬉しいが、小学生の頃に歩いた畦道の犠牲の上に成り立っていることだけが少し寂しい。
あそこで飛び回っていたトノサマバッタや田圃のゲンゴロウの赤ちゃんはどこへ行ったのだろう。人の行き来が激しくなってからすっかり見なくなってしまった。
俺は県内最大級に広い自転車置き場に自転車を停めた。一気に何人もなだれ込めそうな幅広い自動ドアから店内に入ると様々な客層が重そうなカートを引いていた。
俺は中央のエスカレーターから2階のファッションフロアへ向かった。そろそろ新しい冬着が欲しいと思っていたところだ。普段からよく行く安くて有名なファッションブランドのチェーン店に足を踏み入れる。
ただ安いだけではなく、服の種類が圧倒的に多いので誰かと被ることが少ないのもこの店の売りだ。最近ではやや女性向けに偏りつつあり、男物の服は店内の端のスペースに追いやられていた。目ぼしいものがあるかどうかじっくり眺めていると聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
「高橋?」
立花、俺は固まった。校外でクラスメイトと出会う、俺にとってはあまり嬉しくない状況、しかもそれが立花となれば思考が一時的に停止する。
「なんで? こんなところに」
「え、なんでって……服を見に」
まさか、これまで何度かこの店には来ているが立花と思しき姿を見たことなんて無い。今日に限ってどうしてこうなる。
「き、気付いても声かけないだろ。学校じゃないんだし」
「何それ? 私そういうの気にしないタイプなんだ……迷惑だったかな」
まずい、何を言っているんだ、いくら校外だからって相手は立花だぞ、素直に嬉しいって言えばいいんだ。でもこのなんともいえない自分の領域を侵害されたような気分はどうしようもない。
「いや、全然。ここよく来るの?」
立花は俺の隣の男物の服をいじっていた。
「ううん、ここは今日が初めて。いいよねこのブランド」
ファッションの面では立花と気が合うようで安心した。
立花の服装は黒いタートルネックに黒いスカート、首からシルバーの十字架をぶら下げていた。ゴスロリとまではいかないが普通の高校生らしくはない。制服とは違って身体のラインが目立つ服装、胸はそれほどだがそのすらっとした佇まいに視線が泳ぐ。
一方の俺は灰色のクラッシュジーンズに黒いシャツ、その上に白いパーカーと個性もくそも無い服装、立花に会うとわかっていたらもっと気を使って服を選んだ。
「高橋の普段着ってそんな感じなんだ?」
「え? やっぱりダサいかな」
立花に苦笑を返す。
「ううん、自然」
自然って何だよ。
「立花は似合ってるよ。大人っぽく見える」
「え」
立花が目を丸くする。
「へへ、ありがとう」
首から下がった十字架を指で弄りながらにこりと笑った。
「高橋、今暇?」
「え?」
「良かったらお茶でもどう? ちょっと一人じゃ入り辛いお店があるんだけど」
少し考えてから気付いた。これは一般的に言うデートじゃないか? 今の立花に深い考えが無いことはわかる、でも高校生男女二人がお茶なんて傍から見たらデート以外なにものでも無い。
「俺は良いけど」
「俺は?」
「ああ、いや、いいよ。行くよ」
すっかり立花のペースだ、考えすぎて余計なことを言わないように気を付けなければ。