一章一話
「ん、え? 真っ暗?!しかも私裸?!」
「あ、お、起きちゃった!早く!早く!!」
暗闇の中、少女の声が聞こえてきた。
「なに?!誰か居るの?」
「え!あ、は、はい、えっと、居ます」
「あ‥‥うん、声がするからね」
驚きと恐怖から明菜が咄嗟に尋ねた言葉は、更に弱気な返事に成って帰ってきた。
「あの、真っ暗で顔もみえないんですけど?」
「あの、それは、あのですね、お姉様に合うの服が無くて、此方から見えないようにしているのと、その、お姉様からも外が見えないようにするためで‥‥えっと、‥」
「‥‥服がないから部屋ごと暗くするの?、せめて、タオルとか貰えないかな?」
「あ、そ、そうですね、私のハンカチが有るのでコレを使ってください」
「ハンカチって‥‥‥」
声のする先、床上30センチほどが明るく光を通した。
その光は自分が大きなガラスの壁に囲まれて居て、その上に厚手の布が掛けられていることまでは分かった。
それよりも驚いたのは、捲られた隙間から入ってきた手は自分の手の2倍程も有った。
「え?!」
「あ、えとっ、う、受け取って下さい」
明菜の驚く声に、差し出されたハンカチが大きな手と共に揺れ、声の主も恐る恐るなのだと気づく
受け取ったハンカチ?を、バスタオルの様に体に巻く
「全身隠すのは無理ね‥、見られても構わないんだけど、この真っ暗なのを何とか出来ないかな?」
「爺、まだかな~」
「聞こえてる?!」
「あ、は、はい」
少し怒声が混じった為か、怯えるように返事が返る
「‥‥開けて」
「でも」
「開けなさいよ」
「あの、見たこと無い場所で、驚いて死んじゃったり‥」
「そんなに脆い神経してないわよ!さっさと開けなさい!」
「はい!」
ばっ、と取り払われ、開かれた視界に映るのは‥‥
「‥‥?、お姫様の寝室みたいな‥」
白と黒が中心に赤色が混じる世界
真っ白な壁に存在感たっぷりの黒いチェスト、所々金細工の凝らされた豹、そんな豹の横にはひよこのぬいぐるみ、きりん、ぞう、くま‥‥
アンマッチがむしろ可愛い部屋、明菜はベットの上だったようで、ゴシックな姿の少女が、さっきまで明菜が閉じこめられていたであろう箱で、顔を半分隠し様子を見ていた。
「‥‥‥」
「‥‥‥何か言いなさいよ」
「ごめんなさい」
「あのね、謝ってとは、言ってないから」
「はい、ごめんなさい」
「あー、うん、まず、その箱にかかってた布を貸してくれないかな?」
「あ、はい」
受け取った布を体に巻きつける
「モンブランの栗に成った気分ね、まぁ良いか、ねぇ、聞きたいことが有るんだけど答えてくれる?」
「はい」
質問への回答はいちいち要領が悪かったが、要点は確認できた
「つまり、此処は地球ではなくてアウスフェイルとか言う世界で、私が住んでいた場所とは違うのね?」
コクコク
少女は首を縦に振り回答を返す。
「そして、此処は高位魔族のお屋敷で人間との戦いが不利に成ってきたので、私が呼ばれた?」
‥コク?
少し首を傾げてから頷く少女
「‥ファンタジーね、まぁ追々確認するとして、後二点はしっかり確認させて、私は元居た世界で死んでいるのね?それと、この世界に来るための儀式に失敗してるの?」
ウルウル‥‥コク
涙目の少女との立ち位置が、完全にいじめっ子といじめられっこの距離感
コンコン!
「あ、爺?爺なの?」
「はい、お嬢様、服が一着ですが整いましたのでお持ちしました」
「は、早くちょーだい!」
「はい、失礼します」
ガチャ
部屋の扉が開くと、燕尾服を着たメガネのネズミが二足歩行で入ってきた。
「おや、起きられましたか」
「うん、さっき」
ネズミは明菜を見るといかにも執事風のお辞儀をした。
「はじめましてアキナ様、私は、このお城にてシェラお嬢様のお世話をさせていただいております、インプ族亜種ネズミインプのグロンと申します」
「‥‥‥ね、ネズ、お、大きすぎでしょ!」
明菜も、ただのネズミ程度なら驚かなかっただろうが、自分より僅か大きいサイズとなれば、その際立つ異様さに驚くのも無理はなかった。
明菜はサッと体に巻き付けていた布を深く被った
「シェラお嬢様、どのようなお話をされましたか?」
シェラは、明菜が起きてからのあらましを説明した。
「そうでしたか、最後の説明は後ほどの方が良かったですね。領主様も早くお会いに成りたいとおっしゃられておりますので」
「う~、爺、お姉様に着替えて貰いたいから退室してくれる?着替えが済んだら、お兄様の所に行くから」
さ
「では、食堂で宜しいでしょうか?もうすぐ夕食の時間ですので、アキナ様のメニューは領主様と同じ物を用意いたします」
「うん、お願い」
「では、失礼いたします。アキナ様、驚かせたこと申し訳有りませんでした」
バタン
「‥あの、お姉様?」
「なに?」
「驚かせてごめんなさい、爺は私達とは姿が違うけど、とっても良い人で、えっと、その、嫌いには成らないでください」
明菜は顔だけ毛布から出し罰の悪い顔をした
「いえ、魔族って聞いて理解したつもりで居たけど、そうよね、姿が違うくらいは普通なのね‥‥ねえ、予め聞くのだけど、他にも特徴的な姿の人っている?」
「えっと、このお屋敷には爺だけです。あ、『魔族は』ですけど」
「ま、まぁ、後で領主様?からお話が聞けるならその時に色々聞くわ、とりあえず服を頂戴」
「あ、はい」
渡された服は、いわゆるチャイナドレス
赤色を基調として背中の肩甲骨から膝裏まで黒くかすりが入り、その黒い陰の中に青と銀色で河が描かれている
そして、何よりもスリットが太もも付け根付近まで有る正にチャイナドレス
「‥‥凄いわね、コスプレっていう感じが‥‥」
「あの、下着が用意できなかったので包帯を‥」
「‥‥包帯の下着に、スリットの深いチャイナドレス、無いのよね?」
「はい、本当は数着の服と下着が用意出来ていたのですが、お姉様を此方に呼ぶときに、しっぱいしてぇ‥ぅぅ」
「わかったから、泣かないの! もぅ‥」
明菜は受け取った包帯をサッと巻きつけチャイナドレスを着た。
「さ、食堂に連れてって」
「は、はい」
ベットから降りようとする明菜にシェラが手を伸ばし、丁度子供が人形の手を引く様に、食堂に向かった。