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妹の月神フェガリにいつも諭されていた
「兄さんは正義であろうと真面目過ぎるのよ、そんなんじゃ自分のやりたい事もできないわ」
奔放で楽しそうな妹を見ているとその通りかも知れないと少し思えた
父上が天界の庭を突っ切って行くのが見え つい声をかけた
「父上様、今日は誰に御逢いになるのですか?」
主神で空の神であるアエラスはまさに天気の様に移り気で多情だ、見つかってしまったかと悪びれる事なく笑っている父を見ると諌める気も失せてくる
「私の暁に逢おうと思ってね」
その言葉に自然と眉間に皺がよるのが解った
「また…アヴギですか」
唯一、寵愛の証に3対の翼を与えた天使を父は愛し過ぎている
「アヴギに逢わないでいると世界はまるで明けない夜の様でな」
愛の神に唆された訳でも無いのに頬を染め嬉しそうに語る父に気の無い相槌を打ちながら付いて行く
「…付いてくるのか」
「少し貴方の暁に興味が湧きまして一目見てみようと」
「惚れてもやらんからな」
軽口を叩きながら向かうと木の下で眠る天使がいた
「アヴギ、私の暁」
父は俺がいるのも忘れて息子には一度も向けたことも無い甘い声で呼びかけながら顔を上向かせ口付けを落としている
その声で目が覚めたのか頬に影を落としていた睫毛が震えた
「アエラス様…」
父を見ると彼は花咲く様に微笑んだ
その間俺は瞬きもできず立ち尽くしていた
天界にいる数多の美人でも彼程完璧な美貌をもつ者は見たことが無い
そしてその豪奢な翼は太陽と月の鳥でも敵わない力強さと繊細さを兼ね備えていた
あまりにも完璧な美貌に衝撃を受けていると彼がこちらを向いた
「…どなたですか?」
まだ寝起きのおぼつかない足取りで近寄って来る
「私の息子のイリヨスだよ」
彼に寄り添う様にしながら父が俺を紹介している
「じゃあ太陽神様ですね」
そう言うと唐突に俺の髪に触れてきた
「アエラス様にそっくりな綺麗な金髪ですね」
「…止めろ」
振り絞るようにして声を上げると彼の腕を掴み遠ざける
気づくと俺は不思議そうな顔をする彼に言葉を叩きつけていた
「お前は甘い毒だ…過ぎた美貌は身を滅ぼさせる」
彼の魅力に飲み込まれないように怒りを瞳に燃やし睨み付ける
「イリヨス、言葉が過ぎるぞ」
驚いた顔をするだけの彼と違い父上は愛しい者を罵倒され怒りで瞳が嵐の空の様に濃い群青に染まっていく
「…申し訳ありません。私はここで失礼させていただきます」
彼のほんのり甘く爽やかな香を振り払う様に早足で歩き少し行って一度振り返った
彼は父や俺に比べると頭1つ程小さくほっそりとしてしなやかな身体を父に寄り添わせ落ち着かせる様に頬に手を添えていた
もう父に近付く彼の姿なんて見たくない
なんだか傷付いた気持ちで逃げるように駆け出していた
…彼が触れた感触がまとわりついて離れなかった




