温かい手
介護施設に勤めてる俺はいつも老人を相手に仕事をしている。
ほとんどが認知症の患者ばっかりである。
患者と話すのは苦手な方だが、仕事上話をしないと先に進めない。相手の気持ちを考え、相手の目線で話をしなければならない。本音を言うと楽しくはない。なんせ相手は認知症があるためわかっているのかどうなのか分からない。患者も好きで認知症になったわけではないし、俺もそこは理解している。ただ、もう11年もこの仕事をしているためか、他の仕事に着こうとは思わない。楽しくはないが嫌いでもない。
患者とのレクレーションの時、80を超えるおばあちゃんにこう言われた
『手相みたるから、手だしてみぃ。』
俺はあんまり占いとか手相とか信じる方じゃないが、仕事だから仕方がない。仕方なくそのおばあちゃんに手を見せて見ると、
『あんまりええ手相やないわぁ。結婚も遅いし、お金もたまらんし、将来ええことなさそうやな。』
俺は正直腹が立った。なんで他人のあなたにこうも言われないといけないのか。手を見ただけで俺の全部がわかるはずもないのに。
そんなことを頭で考え、顔で笑っていた。
だがそのおばあちゃんが最後に、
『手相は悪いねんけど、あんたの手は冬やのに温かいなぁ。まるでカイロやな。ずっと触っていたいわぁ。』
というとずっとその手を離さなかった。まさか最後にそんな事を言うとは思わなかった。俺の中ではバカにされてると思ってたからだ。
さっき言った手相の事はすぐに消えた。認知症があるため本当なのか嘘なのかわからないが、俺が思うには手相の事を言うのではなく、あなたはぬくもりのある人という風に聞こえた。
さっきの怒っていた俺は何処かへ行ってしまった。
俺は少し今の仕事が楽しい気がしてきた。人を愛する事に対して無頓着だった俺がなぜかその手を見せた事で愛する事を教えてもらったように感じた。まさか80過ぎのおばあちゃんに教えてもらうとは。
俺は自分なりに人を愛する事を深く考えさせられる1日だった。
最後まで読んで下さってありがとうございました。