抜剣の救助
第十三区、第二通風環。
濃度石は黄から橙の間。
差圧布は、一定の角度で揺れている。
危険ではあるが、
制御不能ではない。
「――抜剣!」
号令と同時に、金属音が重なった。
四人。
全員が剣を抜く。
先頭の班長は、動きが早い。
声も通る。
「前列、三歩! 後列は壁沿いだ!」
「弓、上! 術師、詠唱準備!」
判断は正確だった。
誰も文句を言わない。
風が乱れる。
角ダレが生じ、
煤甲虫が一体、壁から剥がれ落ちる。
「接触!」
斧が前に出る。
剣が続く。
酸が飛び、
盾に当たって弾ける。
「下がれ!」
「回り込め!」
声が重なる。
誰も間違っていない。
だが、音が多い。
風が押され、通風が一瞬、詰まる。
術師の詠唱が半拍遅れる。
「急げ!」
「今だ!」
魔術が放たれ、
煤甲虫が落ちる。
死体が転がり、床に酸が残る。
「踏むな!」
誰かが声を張り、全員が止まる。
一拍遅れて、弓が足を引く。
転びはしない。
だが、危なかった。
全員が、それを理解している。
先へ進む。
通風路は狭まり、天井が低くなる。
逆流が起きる。
「押すぞ!」
「前、詰めろ!」
剣を構えたまま、全員が踏み込む。
風に逆らい、力で通す。
酸が舞い、術師が咳き込む。
「平気か!」
「大丈夫だ!」
大丈夫ではない。
だが、進む。
数分後、
崩落地点に到達する。
救助対象は、意識がある。
「生存者確認!」
声が上がる。
縄を張り、
支柱を立て、
慎重に引き上げる。
途中で、
また風が揺れる。
「動くな!」
「支えろ!」
全員が踏ん張る。
剣が、支えになる。
時間をかけて、ようやく救出が終わる。
帰還路。
誰も倒れていない。
大きな怪我もない。
だが、
全員が息を荒げている。
装備を外しながら、誰かが笑った。
「……危なかったな」
「でも、何とかなった」
「剣抜いて正解だったな」
班長は頷く。
「正しい判断だった」
誰も異論を言わない。
報告書には、こう書かれる。
救助完了。
小規模交戦あり。
軽度の吸引症状一名。
対応済み。
成功だ。
誰もが、そう思っている。
ただ一つだけ、
現場に残っていた。
――
「起きなくてもよかったことが、起きた」
という感触。
だが、それを
言葉にする者はいなかった。




