小さな不意打ちの出来事
須磨子とチーフは、並木道を抜け、少し人通りの多い横道へと足を向けた。
店先には色とりどりの花が並び、午後の陽ざしがガラス窓にきらりと反射している。
「今日は……とても賑やかですわね」
「ええ。休日は特に人が集まりますので。
どうぞ、足元にお気をつけて」
そう言われ、須磨子は頷きながら歩幅を合わせた――その瞬間。
視界の端から、小さな影がすばやく飛び出した。
「あ、危ない!」
買い物袋を抱えた幼い子どもが、須磨子のほうへまっすぐ駆けてきて――
避ける間もなかった。
が。
「――っ!」
チーフの腕が、須磨子の肩をそっと引き寄せた。
触れたのはほんの一瞬だが、確かな力強さを感じる。
子どもは須磨子の前を走り抜け、無事に母親のもとへ。
「申し訳ございません!」
「いえ、こちらこそ……!」
親が頭を下げて去っていく間、
須磨子はただ、胸の鼓動の早さをごまかせずにいた。
……いけませんわ。
こんなにも、近くに感じてしまうなんて。
「お怪我はありませんか、須磨子様」
至近距離。
落ち着いた声。
わずかに、風に揺れた髪が触れそうなほどの距離。
「……だ、だいじょうぶですわ……!」
思った以上に震えた声になってしまい、須磨子は慌てて胸元を押さえた。
(落ち着かなくては……落ち着かなくては……!)
そんな須磨子とは対照的に、チーフは静かに息をついた。
「……よかった。
本当に、よかった」
その言い方は、
須磨子が思う以上に、心から安堵しているように聞こえて。
その言い方は、
須磨子が思う以上に、心の底から安堵しているようで。
また、胸の内がそっと揺れてしまう。
「す、すみません……わたくし、ぼんやりしていて……」
「いえ。
危険があるときは、わたくしのほうが気づけねばなりませんので」
そう言って、まるで何事もなかったかのように微笑んだ。
けれど、
その一瞬の距離の近さは、胸の奥でずっと熱を残している。




