並木道の午後
しばらく歩いていると、並木の切れ目から広がる街並みが見えてきた。
陽ざしが明るく、店先には小さな花々が並び、どこか心が浮き立つ。
「……すてきな通りですわね」
そう呟くと、チーフは歩みを合わせながら、わたくしの横顔に視線を向けた。
「ええ。
お好きそうだと思いまして」
「わたくしが……?」
「はい。須磨子様は、景色をよくご覧になる方ですので。
こうした穏やかな通りのほうが、落ち着かれるかと」
胸のざわめきが、またひとつ波紋のように広がる。
(……わたくしのことを、そうして見ていてくださったのですの?)
言葉にできず、ただ足元の影を追うように視線を落としてしまった。
その時──
ひとすじの風が吹き、須磨子の帽子のリボンをふわりと揺らした。
「あっ……」
リボンの端が風にさらわれ、ほどけそうになる。
するとチーフがすっと手を伸ばし、
落ちかけたリボンの先をそっと押さえてくれた。
「危ういところでした。……風が強いですね」
その手が、須磨子の帽子に触れたのはほんの一瞬。
しかし──
触れたわけでもない距離なのに、胸の奥が熱くなる。
「……ありがとうございます」
「いえ。
お怪我でもされたら大変ですので」
丁寧な声に、またざわめきがひとつ。
風が過ぎ、並木道に静けさが戻った頃、
チーフは少しだけ言葉を選ぶようにして口を開いた。
「……須磨子様」
「はい?」
「その……もしよろしければ、少し休んでいかれますか。
歩き通しでは、お疲れでしょう」
須磨子は首を振った。
「いえ……疲れておりませんわ。
むしろ……こうして歩くのが、とても心地ようございますの」
言ってしまってから、はっと頬が熱くなった。
しかしチーフは驚いたように目を瞬き、
すぐにやわらかな笑みを浮かべた。
「……それなら、よかった」
その笑みが、また胸の奥に静かに広がっていった。




