手と手がふれる、その瞬間に
しままちの入口で待っていた桐生は、
遠くから歩いてくる姿を見つけた瞬間、
息を飲んだ。
ゆるやかなワンピース。
清楚なのにどこか柔らかく、
“庶民の街”に合わせて選んだのだと分かる。
(……似合いすぎる……)
声をかけようとした瞬間、 須磨子も気づいて、嬉しそうに微笑んだ。
「桐生様。本日は……よろしくお願いいたします」
「こちらこそ……っ。よろしくお願いします」
語尾が裏返ってしまい、桐生は慌てて咳払いする。
◆ しままち散策
店内を歩くたび、須磨子は目を輝かせる。
「まあ……このブラウス、千円で……?」
「安いですよね。季節物は特に」
「季節……物……?」
小さく首をかしげる姿に、桐生の胸がやわらかく揺れる。
(かわいい……)
語彙が吹き飛びそうになるのを、何度も飲み込んだ。
須磨子が鏡の前で服を当てて悩んでいると、
桐生は思わず口を開く。
「……それ、すごくお似合いだと思います」
須磨子は息をのんだように桐生を見る。
「……本当、でございますか?」
「はい。あ……えっと……す、すごく……」
頬が一気に熱くなる。
その様子を見て、須磨子の胸もほんのり色づく。
(……嬉しい……こんなにも……)
◆ 店を出て、並んで歩く2人
しままちを出ると、初夏の風がふわりと吹いた。
「本日は……とても楽しいですわ」
「それは……良かったです」
並んで歩く距離は以前より近い。
服を選んでいる間に自然と距離が縮まっていた。
須磨子の指が、そっと桐生の手の甲に触れる。
偶然かと思ったが──
そのあと、もう一度ふれる。
(……これって……)
見れば、須磨子は小さくうつむき、
耳まで赤くなっていた。
(あ……違う……これは……“合図”だ)
桐生の心臓が強く跳ねる。
勇気を振り絞って、そっと手を伸ばす。
「……須磨子様」
「……はい……」
その指先が重なった瞬間──
須磨子が、ふわりと寄り添うように指を絡めた。
恋人繋ぎ。
桐生の足が止まりそうになる。
(無理……無理無理無理……っ)
心臓が爆音で鳴り、
視界の端がにじんだ。
「……だ、だいじょうぶでございますか……?」
「っ……だいじょ、ぶ……です……!」
声が震えている。
(須磨子様が……俺の手を……自分から……)
須磨子は恥ずかしそうに微笑む。
「……桐生様と手を繋ぐと、とても……安心いたしますの」
その一言で、桐生は完全に息を呑んだ。
指先から胸の奥まで熱が走り、
言葉にできない幸福感が全身を包む。
(ああ……俺……ほんとに……)
(この人のこと……好きなんだ……)
ふたりの影は、並んでひとつに寄り添っていた。




