表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/80

待ち合わせ:まだ触れてもいないのに胸が苦しい

◆須磨子サイド:初めての“庶民駅前待ち合わせ”


 駅前の広場に降り立った須磨子は、

 バッグを胸の前でそっと抱えながら辺りを見渡した。


(……桐生様……まだいらしていないようで……)


 ほっとしたような、少し残念なような。

 胸の奥で複雑な想いが揺れる。


 慣れない庶民駅前のざわつきも、

 今日はなぜか少しだけ心地よかった。


(今日……わたくし……

 “お出かけが楽しみ”という気持ちで朝を迎えましたのね……)


 気付けば頬に微笑みが宿る。

 けれど次の瞬間──


 人混みの向こうから、桐生が走ってくる姿が見えた。


 息を切らし、髪を整える余裕もなく、

 それでも必死にこちらへ向かってくる。


 その姿を見た瞬間、


(……っ……)


 胸が、ひとつ跳ねた。



◆桐生サイド:人生で一番“走った理由”が美しい


(間に合え……間に合え……っ!)


 電車が1本遅れ、桐生は駅の改札を出るなり駆け出した。


 息は苦しいが、それ以上に──


(須磨子様を……待たせたくない……!)


 その一心だった。


 そして視界の先、

 白いブラウスにラベンダーのスカートの女性が、

 凛と立っているのが見えた。


 陽を受けて、柔らかい髪が揺れる。


 桐生は一瞬、足を止めそうになった。


(……綺麗……)


 喉の奥がきゅっと締まる。


(いや、待たせてる場合じゃねぇ!!)


 再び駆け出し──

 須磨子の前で、勢いよく深く頭を下げた。



◆ふたり:まだ挨拶だけなのに甘い


「す、須磨子様……っ、すみません……お待たせして……!」


 桐生は息を整えられず、

 それでも真っ直ぐな瞳で須磨子を見つめる。


(ああ……胸が……苦しい……)


 須磨子は胸の前でそっと手を組み、微笑んだ。


「いいえ……

 わたくしも、今来たところでございます」


 その微笑みは、

 “安心した”と“嬉しい”が混じった、柔らかい光を帯びていた。


 桐生の息が止まる。


(……やばい……今日の俺……ほんとに死ぬ……)


 声にならない悲鳴を胸の中で上げながらも、


「その……本日はよろしくお願いいたします、須磨子様」


 真っ直ぐに頭を下げた。


 須磨子の頬が、ふわりと赤く染まる。


「こちらこそ……よろしくお願いいたします、桐生様」


 2人の声が重なった瞬間──

 どちらともなく、ほんの少し照れて笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ