しままちデートの朝に
●須磨子サイド:3時間ソロファッションショーの果てに
来週の土曜日──
その日を指折り数えて迎えた朝。
須磨子は、鏡の前に立ったまま動かなかった。
(……こちらは少し華美でしょうか……?
けれど、あまりに地味でも……桐生様に……)
ベッドには、昨晩から並べ続けた洋服が山のように広がっている。
すべて「しままち」で買いそろえた、庶民的で愛らしい服ばかり。
ブラウスを合わせては外し、スカートを当てては戻し──
気付けば三時間が経っていた。
(ああ……時間ばかりが……っ)
胸に手を当てると、どくん、どくん、と鼓動が早い。
(……こんなに迷うのは……
わたくし、今日を……特別に思っているから、なのでしょうか)
結局、選んだのは
白のブラウス+淡いラベンダー色のスカート。
清楚だが、少しだけ可愛い。
“気張らない”のに“会いたい気持ちは伝わる”装い。
鏡に向かって、そっと小さく息を整える。
(桐生様……お喜びになってくださるでしょうか)
その名を心で呼んだだけで、頬に熱が灯った。
●桐生サイド:苦悩の男、ついに鏡と向き合う
同じころ。
桐生は、自室の姿見の前で固まっていた。
(……服って……こんなに難しかったか?)
普段は仕事用のポロシャツ or そこらのスウェット。
しかし今日は──
“須磨子様と2人でしままちデート”。
(いや、落ち着け……ただの買い物……
いや、違うだろ、デートだろこれは!!)
桐生は両頬を軽く叩いた。
心臓がバクバクとうるさくて落ち着かない。
クローゼットにある服を全部出し、
組み合わせては崩し、また組み合わせ──
その結果、鏡の前に立つ彼は
落ち着いた紺のシャツに、清潔感のあるベージュのパンツ。
いつもより少し“まとも”だ。
(……これが……俺の……精一杯……)
けれど、その瞳はどこか決意を宿していた。
(今日こそ……
須磨子様に、ちゃんと“隣を歩きたい”って思っている男だと……
示せるだろうか)
ポケットの中のスマホが熱い。
時間を確認するたび、胸が締め付けられるようだった。
(……会いたい……)
小さく息を吐く。
そして玄関の扉に手をかけた。




