届いた想いに、胸が揺れる
シャワーを浴びて上がったばかりの桐生は、
まだ蒸気の残る部屋で髪を乾かしながら、
今日の噂のことを考えまいとぼんやり天井を見ていた。
そのとき──
スマホが震えた。
画面に浮かぶ名前を見た瞬間、
桐生の心臓が跳ね上がる。
(……なんだ、これ……
こんな通知ひとつで胸が苦しくなるなんて……
俺……認めたくなかっただけで……
ずっと……須磨子様のこと……)
表示された名前が、胸を刺す。
――西園寺須磨子様
(……っ!?)
思考が止まった。
開く指が震える。
そして本文を読んだ数秒後、
桐生は 完全にフリーズ した。
(む……無理だ……
こんなの……落ち着いて読めるわけ……っ)
胸がぎゅっと縮まり、言葉にならない熱が喉にせり上がる。
(返信……返信……! いや待て、落ち着け……!
いや落ち着けるわけが──)
混乱しすぎた結果──
桐生は、まず とんでもない誤送信 をしてしまった。
◆送信
『ありがとうございます。ただいま返信を打っておりますので少々お待ちください』
(──って何送ってんだ俺ぇぇぇぇぇ!!?)
慌てて頭を抱える。
(どうするんだよ……よりによって須磨子様相手に……
なんだよ“返信を打っておりますのでお待ちください”って……
ビジネスメールか俺は……!!)
だがもう送ってしまった。
桐生は深呼吸を三回して、
震える指で慎重に文章を作り直し始めた。
削っては書き、打っては消し、
十数回の修正の末──
ようやく“桐生としての最善”が整う。
覚悟を決めて、送信。
◆送信
『須磨子様
先ほどは、取り乱したような文面をお送りしてしまい申し訳ありません。
あのようなご丁寧なお気持ちを頂戴し、胸が熱くなる思いです。
こちらこそ、一緒に過ごせた時間がとても嬉しかったです。
噂の件につきましても、どうかお気になさらないでください。
わたしは、須磨子様が笑っていてくださることが一番で……
そのお隣にいられたことを光栄に思っております。
もしご迷惑でなければ、
またご一緒できれば……と、僭越ながら願っております。
夜分に失礼いたしました。
桐生』
送信ボタンを押した瞬間、
桐生は椅子にもたれかかり、ぐったりと天井を仰いだ。
(……俺……何やってんだ……)
しかし胸の奥は、痛いほど温かかった。




