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西園寺須磨子は未だ恋を知らない  作者: 天音紫子(著)×霧原影哉(構成・監修)
第14章 庶民の青年は、知らぬ間に恋の渦中に立っていた
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須磨子、九条院事件の真相を語る

 遊園地デートから二日後の夕方。

 美佳が自室でストレッチをしていると、突然スマホが震えた。


 画面には「すまっち」の名。


(こんな時間に珍しいな)


 通話かと思いきや、LIMEの文章だった。


『美佳様……少し、お話ししてもよろしいでしょうか』


 硬さと緊張が滲む文面に、美佳は姿勢を正す。


「どうした、すまっち」


 既読がつく。少しの間、入力中の丸いマークが点滅し、やがて長い文が送られてきた。


『あの……実は……

 遊園地の帰り道で、九条院様が現れまして……

 桐生様が、公衆の前でひどく侮辱されてしまいました』


(その現場、全部見てたけどな)


 美佳は内心で肩をすくめたが、続きを待つ。


『わたくし……その……思わず、手が出そうになってしまいましたの。

 とても、はしたないことを……』


 文章の端々から、消えてしまいそうなほどの落ち込みが伝わる。


 美佳は素早く打ち込んだ。


「よくやった、すまっち」


『え……?』


「当然だろ。それは誰だって怒る。

 むしろ出そうになった程度で済んだのが偉いくらいだ」


 しばらく返事がなかったが、やがて短い文が返ってきた。


『ですが……そのことで、社交界で噂になってしまって……

 桐生様に、ご迷惑をおかけしているのではと……』


 美佳はスマホを見つめたまま、何度も瞬きをした。


(この子は、本当に……)


「すまっち。はっきり言うぞ」


『はい……』


「その噂は、全部“好意的”だ。

 誰もチーフを悪く言っていない。

 むしろ、すまっちと並んでいることを応援している」


 返ってきたのは、息を呑むような短い返信。


『……本当、ですの?』


「本当だ。

 でな、すまっち。もう一つ大事なことがある」


『……はい』


「チーフは今日、悩んでいた。

 “自分なんかが、須磨子様の隣に立っていいのか”って」


 送信して数秒。

 画面の向こうで、すまっちが固まっている気配がした。


『桐生様が……そのような……?』


「だからさ。今すぐ連絡してやれ。

 すまっちから“一昨日はありがとうございました”の一言だけでもいい」


 美佳は少し息を整え、続ける。


「それだけでチーフは、どれほど救われるか分からない。

 すまっちの言葉なら、まっすぐ届く」


 長い沈黙。


 美佳はスマホを握りしめたまま、相手の呼吸を感じ取るように待った。


 そして──


『……美佳様。

 わたくし……勇気を出してみます』


 その文章は、震えているのに、どこか決意もあった。


 美佳は小さく笑い、短く返信した。


「行ってこい、すまっち。大丈夫だ」


 スマホの画面が暗くなる。


 静まり返った部屋の中、美佳はひとり呟いた。


「……あとは、あの鈍感男がどれだけ赤面するかだな」


 少しだけ楽しそうに笑いながら、布団へ潜り込んだ。

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