紳士サロンでは
◆◆ 薄暗いサロンにて ――悪口紳士、緊急会合 ◆◆
午後の社交クラブ。
葉巻の煙がうっすら漂うラウンジに、緊張めいたざわめきが走る。
「……聞いたか?」
「例の九条院坊ちゃまの件だろう」
「遊園地で公開処刑されたという……あれか」
「“須磨子様に平手をもらった”らしいぞ」
「いや、実際には寸止めだそうだが」
「寸止めであの屈辱なら……実際に叩かれていたらどうなっていたんだ……?」
重なるヒソヒソ声。
普段は令嬢の悪口で意気投合する紳士たちですら、今日ばかりは顔色が悪い。
そこへ――
「お、お待たせしました……!」
息を切らせて駆け込んでくる一人の男。
そう、九条院である。
(※よりにもよって来ちゃった)
◆◆ 九条院、空気を読まぬ着席 ◆◆
九条院は場の空気を理解しないまま、いつもの席へ腰掛けようとした。
「……失礼、そこは空席だ」
隣の紳士が、露骨に椅子を引いた。
「え……? いつもはここ――」
「“いつも”ではないのでね。状況が違うのだよ」
九条院が眉をひそめるが、さらに追撃が飛ぶ。
「正直なところ、君と同じテーブルにいると……」
「ご令嬢方に“同類”と思われてしまうのでね」
「悪評は伝染する。社交の基本だよ」
悪口紳士たちが、まさかの “悪口で九条院を刺し返す” 展開に。
「そ、そんな……!
私はただ! 須磨子様を守ろうと――!」
「守る? はは……守られたいのは 君 だったのでは?」
「須磨子様の“お黙りなさいませ”……お見事だったそうだな」
「しかもその後、青い顔で逃げ帰ったとか?」
「相当みっともなかったらしいね」
九条院が真っ赤になって立ち上がる。
「わ、私は誤解されている!
私は……須磨子様の“心の叫び”を……っ!!」
「またそれか」
「君こそ現実を見たまえ」
「須磨子様は“はっきり拒絶なさった”のだよ」
「そして今や、社交界は“桐生様との恋路”一色だ」
九条院、膝から崩れ落ちそうになる。
◆◆ とどめ:紳士たち、処遇を宣言 ◆◆
「……九条院君」
テーブルの中央に座る、最年長の紳士が静かに口を開いた。
「我々の結論はこうだ」
「しばらくの間……社交界から距離を置きたまえ」
「何を……?」
「今の君と同席するのは、あまりに危険だ」
「令嬢たちからも“近寄ってはならない”と噂が立っている」
「我々まで婚約候補から外されては困るのだよ」
九条院、心が折れる。
「そ……そんな……私は……ただ……!」
だが紳士たちは冷淡に立ち上がり、背を向けた。
「では、諸君。今日は解散としよう」
「九条院君。……反省することだね」
パタン、と扉が閉まる音だけが残った。
サロンに置き去りにされたのは――
椅子に崩れ落ちる九条院、ただひとり。
◆◆ ナレーション(冷酷) ◆◆
こうして。
悪口紳士クラブですら九条院を見捨てた。
彼が社交界から姿を消すまで、
――あと三日だった。




