《須磨子&桐生番外:っち四天王、誕生の儀》 ― 美佳、逃げ惑うの巻 ―
◇◆ ファミレス感想会が終わった後 ◆◇
ハンバーグの余韻がまだ漂うファミレスのテーブル。
ドリンクバーの不思議な混合ドリンクを手に持ち、
4人のお嬢がなぜかひどく神妙な顔をしていた。
美佳は──嫌な予感しかしなかった。
「……で? なんでそんな“重大発表ですわ”みたいな顔してんの?」
ストローを噛みながら尋ねると、
4人は互いに頷きあい、代表して杖香が前に出る。
◆◆ 宣言:愛称が欲しい令嬢たち ◆◆
「美佳様……わたくし達、思いましたの……」
「須磨子様だけ “すまっち” と愛称があるのは……
いささか不公平ではございませんこと?」
「いや不公平とかそういうルールの問題じゃないからね!?
すまっちは私が勝手に呼んでるだけだから!」
しかし綾乃がうっとり頬を染める。
「庶民式ニックネーム……素敵ですわ……
わたくし達も……“っち”の称号を頂けたら……
すまっち様に近づける気がいたしますの!」
「待て、愛称に身分制度生まれるのおかしいでしょ!!」
瑞帆が手を握りしめて身を乗り出す。
「愛称を与えられる……それはすなわち……
“美佳様に認められた証”……!」
「そんな宗教じみた解釈やめろォォ!!」
最後に、加奈子。
「ですので美佳様!」
バンッ! とテーブルを押して立ち上がる。
「わたくしたちにも“っち名”を授けてくださいませ!!
じょうっち、あやっち、みずっち、かなっち……
四人揃って “っち四天王” として!!」
「名乗る気満々じゃん!!
てか勝手に四天王になるな!!
私いつから教祖になったの!!?」
◆◆ っち四天王、誕生の瞬間 ◆◆
だが、美佳の抗議など耳に入らないらしい。
4人は揃って両手を胸に当て──
「「「「美佳様、どうか“っち”を……!」」」」
美佳は頭を抱えた。
しかし彼女たちのキラキラした目が、あまりにも切実で。
(……これ断ったら泣くやつだ……)
(ていうかもう、愛称なんてどうでもいいんでしょこの人達……
“美佳様に名付けてもらいたい”だけなんでしょ……)
観念した美佳は、深く大きく息を吐き──
「……あーもう!
分かったよ、やればいいんでしょやれば!!」
「「「「きゃああああああ!!」」」」
ファミレス中を揺らす歓声。
隣の席の大学生がこっち見た。
◆◆ 名付けの儀(強制) ◆◆
「じゃあ……言うよ……。
杖香は……じょうっち」
「まああああっ!!
音の雅さ! 響きの可憐さ!
わたくし一生大切にいたしますわ!!」
(知らんが!?)
「綾乃は……あやっち」
「美佳様……!
この響き……尊い……!」
(どう返せばいいのこれ)
「瑞帆は……みずっち」
「……可愛ゅうございます……(尊死)」
「語尾溶けてんよ!?」
「加奈子は……かなっち」
「美佳様のお口からわたくしの名が“っち化”した瞬間……
いま、世界が変わりましたわ……!」
「そんな大層な儀式じゃないわ!!?」
◆◆ 四天王、そろい踏み ◆◆
4人は席を立ち、勢いよくポーズを決めた。
「じょうっち!」
「あやっち!」
「みずっち!」
「かなっち!」
「「「「四人合わせて──っち四天王!!」」」」
「やめろォォォォ!!
それ本当にやるつもりでいたやつじゃん!!」
しかし4人は満面の笑み。
「美佳様……この名、必ずや大切にいたしますわ……!」
「公式愛称ですわね……!」
「史上最高の賜り物ですわ……!」
「“っち四天王”として、美佳様と須磨子様の恋路……
全力で見守って参りますわ!!」
「誰がそんな役職作れって言ったァァ!!?」
◆◆ そして、美佳は悟る ◆◆
(……あ、これもう止められないやつだ……)
(完全にノリと勢いで進むタイプの人達だ……
いや前から知ってたけど……)
美佳は天を仰いだ。
──その瞬間、LIMEの通知。
すまっちからではない。
「っち四天王グループ結成いたしましたわ!」
「アイコン作りましたの!」
「スローガン考えましたわ!」
「ユニフォームも必要ですわね!」
「やめろォォォォォ!!!???」
ファミレスに響く悲鳴。
こうして、美佳の知らぬところで
“っち四天王”は華々しく産声を上げたのだった。




