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わたくし、再び世界へ踏み出しますの

 あの夜、文をしたためてから数日が過ぎた。

 けれど、須磨子の胸のざわめきは、あれ以来、静まるどころか──

 ときおり、不意に風が吹きこむように、そっと波紋を広げるのだ。


「すまっちー! ひさびさに街へ繰り出すよー!」


 朝の身支度をしていた最中、あの勢いのよい声が電話から飛び込んできた。


「まあ、美佳様……おはようございます。ええと、本日はどちらへ……?」


「んー、考えてない! けど! 新しい景色見せてあげるからっ!」


 相変わらず、躊躇という文字をどこかに落としてしまわれたような元気さだ。


 その元気さにつられて、須磨子もつい頷いてしまった。


「……わかりましたわ。では、参りましょう」





 待ち合わせ場所につくと、すでにチーフが立っていた。

 いつもより柔らかな私服で、雰囲気が──なんというか、少し違って見える。


「あ、お須磨子様。こんにちは」


 丁寧に一礼されるだけで、胸の奥がふわっと温かくなる……いったいなぜなのだろう。


「チーフ様。本日は、お休みでいらしたの?」


「ええ。美佳に“どうせ来るなら見届けてほしい!”って頼まれて……」


「お待たせぇぇぇー!!」


 そこへ、手をぶんぶん振りながら美佳が駆け寄ってきた。


「すまっち、チーフ! 三人そろって本日もダァシエリイェス!! 出発進行で──」


 その瞬間。


♪ Prrrr… Prrrr… 


 美佳様の服のポケットから、けたたましいバイブ音が響いた。


「えっ……ちょ、ちょっと待って……はい、もしもし?


 ……うそ、今日だったの!? え、代わり誰もいない?


 ──いやいや無理無理無理! あたし今すまっちと……」


 須磨子とチーフは、視線を合わせて小さく首をかしげた。


「……はいはい行きます行きます!! 今すぐ!!」


 電話を切るや否や、美佳は両肩をつかんで揺さぶってきた。


「すまっち! ごめんっ!! 急にバイト入った!!

 ほんとごめんだけど、今日はチーフと世界広げてきて!!」


「えっ……わたくしと、チーフ様と……二人で?」


「そう! 二人で!

 大丈夫大丈夫、チーフなら安心だし〜!!

 じゃ、行ってきまぁぁぁす!!」


 ものすごい勢いで去っていく後ろ姿を、

 須磨子たちはしばし呆然と見守るほかなかった。


「……風、強いですわね」


「……行きましょうか、須磨子様」


 隣から静かに届いたチーフの声に、

 胸のどこかが、またふわりと熱くなるのを感じた。


「……はい。よろしくお願いいたしますわ」


 こうして、須磨子とチーフの“二人きりの街歩き”が、静かに幕を開けたのだった。

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