出口で待っていたのは、勘違い男という名の道化
夕暮れの遊園地出口。
桐生はすでに HP0、魂が半透明。
須磨子はほんのり頬を染め、そっと桐生の肘に触れて歩いていた。
(う……腕を……っ……!!)
桐生の HP は0のまま逆方向に点滅している。
そんな甘々空気を──
パァンッ、と謎の風切り音が切り裂いた。
人混みの中から飛び出してきたのは、
九条院。
明らかに光沢を盛りすぎた髪。
無駄に気合いの入ったコート。
そして、自意識を圧縮して固めたような眼差し。
(方向だけ全力で間違ってる輝きだ……!)
◆勘違い男、フルスロットルで登場する
「須磨子様ァァァーーッ!!」
桐生と須磨子の間に、絶妙なスピードで割り込む九条院。
周囲の客
「誰……?」「なんか……王子っぽいのに王子じゃない……」
陰から張り込んでいた美佳&4人娘
「……出たわね」「来ちゃいましたわね」「あの“勘違い男”」「キモッ」
九条院は桐生を完全無視し、須磨子だけを見る。
「須磨子様……! そんな庶民の肘などおつかまりになって……! やはり困窮されているのでしょう!?」
「いえ、全く」
即答。
だが九条院には聞こえない。脳が都合よく変換している。
◆桐生への難癖が理不尽すぎて面白い
「貴様ァ!!
須磨子様を惑わせ、護身術を習わせ、じゃじゃ馬呼ばわりされた原因を作り──!」
美佳(小声)
「言ってたのお前だし!?」
須磨子は静かに言う。
「護身術は、わたくしの意思で始めたことですわ」
「ほらぁあああ!!
それ!! “強がり”なんです!!
僕には分かる!!」
美佳(小声)
「いや分かってんのは自分の妄想だけだっての」
4人娘(小声)
「重症ですわね……」「むしろ哀れに……」「いや普通に怖いわ」
◆九条院、暴走の果てに一線を越える
九条院は須磨子の手に触れようと手を伸ばす。
その瞬間。
須磨子史上、最も美しく冷たい微笑みが咲く。
「……お引きなさいませ」
「ほらぁあああ!!
その微笑みこそ!
“助けを求めている証”なんですよ須磨子様ァ!!」
「いや違うって分かれよ!?」
桐生の悲鳴は、九条院には届かない。
◆須磨子様、上品すぎる成敗
須磨子は桐生の前へ歩み出て、九条院と対峙する。
「……九条院様」
声は笑っているのに、温度が氷以下。
「わたくしがどなたとご一緒するか……
あなたにご判断いただく必要はございませんわ」
「い、いえしかし!
その男はあなたに相応しく──」
「──お黙りなさいませ」
夕空すら凍る声音だった。
「わたくしが護身術を習ったのは……
あなたのような方から身を守るためですわ」
九条院の顔が、真っ青になる。
「今日一日、わたくしの隣で歩いてくださったのは桐生様ですわ。
あなたでは、ございません」
「……っ!」
「“じゃじゃ馬”と呼ばれるのは嫌いではありません。
ですが──あなたに呼ばれるのは、心底、不快ですわ」
須磨子はそっと右手を上げる。
ぱしん。
頬に触れていない。
ただ、美しい軌道で止めただけ。
──それだけで、九条院は崩れ落ちた。
「触れて……いないのに……っ……」
「わたくしに触れられると思って?
その思い上がりが、いちばん不快ですわ」
九条院、撃沈。
そのまま人混みにしぼんで消える。
◆そして甘々空間へ復帰
「す、須磨子……様……今の……」
「桐生様。
わたくしと一緒にいてくださって……嬉しゅうございましたわ」
真正面から言われ──
桐生の HP が 0 → MAX → 上限突破。
(あ……やば……昇天する……)
その背後で、
「だーかーらァ!!
私は護衛隊長じゃないってば!!
……ちょっと! 隊列組むなってぇぇ!!」
美佳と4人娘が騒いでいたが、
2人の世界には、もう届いていなかった。




