甘い土産と、焦げつく視線
夕暮れの観覧車を降りると、
園内の灯りが少しずつ増えはじめ、
どこかお祭りの終わりを思わせる雰囲気が漂っていた。
「桐生様……あちらに、お土産のお店が……」
須磨子がそっと指を差した先には、
遊園地キャラクターが並ぶカラフルなショップがあった。
「よろしければ……少し、お立ち寄りになりませんか?」
「もちろんです。須磨子様が望まれるなら」
桐生、HP+20(回復)
しかし、すぐまた削られる。
◆お土産コーナー:ファンシー地獄
店内にはふわふわのぬいぐるみが壁一面に並び、
須磨子の視線がそこでふっと止まった。
「まあ……かわいらしい……」
手のひらほどの、小さなクマのキャラクター。
丸い目がつぶらで、首には赤いリボン。
須磨子がそっと抱き上げると、
まるで彼女の上品な指先に合わせて作られたように見えた。
「とても……愛らしいですわ」
(……やめて……その破壊力は……)
桐生のHPが −40 落ちた。
「須磨子様。もし……お気に召したのであれば」
「え……?」
「お持ち帰りになりませんか?
……その……お贈りできたら、と……」
須磨子の頬が一気に桜色に染まる。
「っ……よろしいのですか……!」
「はい。須磨子様が喜ばれるなら」
須磨子、HP+100(最大値更新)
桐生、HP−30(反動ダメージ)
◆レジ待ちの静かな幸福
ぬいぐるみを抱いて並ぶ須磨子の肩が、
さっきより少しだけ桐生に近い。
「……大切にいたしますわ」
「……はい(死)」
その横顔が夕陽に照らされ、
桐生はまた魂が出かけた。
◆しかし、その幸福の裏で
店の奥。
お菓子コーナーの影。
人の流れに紛れるようにして──
濁った視線が、じり……じり……と2人に近づいていた。
(また……あの男だ……)
美佳は店の外からそっと覗き見つつ、眉間を押さえる。
(須磨子様、桐生……
あんたらが見たら絶対雰囲気ぶっ壊れるから今は黙っとくけど……
しっつこいんだよ九条院……マジでキモい……)
棚の影で、男の影が微動する。
──“須磨子は、僕のほうが相応しい”
──“庶民の護衛ごときのそばに立つなど、許されない”
歪んだ執着が、温度のない目に宿っていた。
◆すれ違いざま
須磨子が買い物を終え、ぬいぐるみを胸に抱いて出口へ向かうとき。
ほんの一瞬。
棚の隙間から、その“視線”が桐生の横顔を射抜いた。
(……ん?)
桐生の眉がピクリと動く。
しかし須磨子は気づかない。
「桐生様? どうかなさいました?」
「……いえ。気のせい、かもしれません」
HPは回復しているのに、胸のどこかがざらついた。
◆店を出たあと
美佳がすぐ駆け寄ってきた。
「すまっちー! 桐生ー! ぬいぐるみ買ってもらったの!?
うわーーー、なんなんそのカップル空間!!(尊死)」
「み、美佳様……! これはその……!」
「須磨子様が喜ばれたなら……私はそれで……」
「はいはいはい、ええ話!
──で、本題なんだけど」
美佳の表情が一瞬だけ真剣になる。
「……帰り道、ちょっと周りには気をつけてね?」
須磨子と桐生は顔を見合わせた。
「どういう意味ですか?」
「説明はあと。今は、楽しいほう優先しときな!」
須磨子が抱えるぬいぐるみを見て、美佳はにやりと笑う。
(……守るからな。あんたらの“恋路”くらい)
甘いぬいぐるみと、焦げつく視線。
2人がまだ知らないまま──
恋の遊園地は静かに、次の波乱へ転がり始めていた。




