上空の個室と、ナイトの限界値
夕暮れの園内。
観覧車へと続く列はゆるやかに進んでいく。
須磨子は、降り注ぐ橙の光を受けながら、
そっと桐生の袖をつまんだ。
「……あの、高いところ……お好きでなくて?」
「だ、大丈夫です。須磨子様とご一緒なら……!」
(強がった!)須磨子は胸の奥で小さく感動したが、
桐生の背中からは HPが1ずつ減っている音 が聞こえる気がした。
やがて2人はゴンドラへ案内される。
◆ゴンドラに乗り込む
須磨子が先に乗り込み、
裾を整えて静かに座る。
「桐生様も……どうぞ?」
「っ……はい……!」
桐生が乗り込んだ瞬間──
ゴンドラが ぐらっ と揺れた。
「っ……!」
桐生の魂が、一瞬だけ口から出かかった。
「桐生様!? い、今のは……!」
「だ……だいじょうぶです……風、でしょう……!」
(風じゃない。完全に緊張が揺らした)
須磨子は、気づかないふりをして座りなおす。
◆上空の個室
観覧車が上昇していくにつれ、視界が一気に開けた。
「まあ……なんて、美しい……」
須磨子の横顔が、夕景に溶けて輝く。
桐生はその瞬間、HP−30。
「こ、これは……反則……」
「? 桐生様、何か……仰いました?」
「い、いえっ!!!!」
(完全に聞かれてほしくない種類の声だった)
◆頂上付近
ゴンドラは頂上付近でゆっくりと停止した。
須磨子はそっと窓に手を添える。
「桐生様……この高さで、あなたと2人きりだなんて……
……少し、夢のようですわ」
桐生、HP−50(致命傷)
「す、須磨子様……そういう……言葉は……!」
耳まで真っ赤に染まる桐生。
須磨子はその反応が愛しくて、静かに笑った。
◆そして“とどめ”
下り始め、地上の灯りがひとつずつ点きはじめる頃。
人混みが増え、降り場は少し騒がしくなっていた。
ゴンドラを降りた瞬間、
須磨子は人波に押され、ふらりとよろめいた。
「きゃ──」
桐生の肘を、反射的につかむ。
──腕組み状態。
──距離ゼロ。
桐生「…………っっっ!!!??!?!?」
桐生 HP:0
ナイト、本日2回目の昇天。
「す、す、す、須磨子様っ……!?
こ、これは……っ」
「あっ……し、失礼いたしましたっ……!!」
離そうとしても、混雑の波が2人を詰めさせ、
結果──桐生の腕の中にすっぽり収まる形に。
(……だめ……
これ以上は……ナイトが……死ぬ……)
須磨子は耳まで染めながら、そっと距離を取る。
「こ、これは……人混みのせいで……その……!」
「……は、はいっ……っ…………(HPマイナスに突入)」
◆救護係・美佳(陰で見てる)
(うわぁ…………桐生、HP0だ……
てかマイナス領域入ってる……
あかん、今日気絶しないで帰れたら奇跡だわ……)
──この日、桐生 透真は悟った。
恋の遊園地は、ジェットコースターより命に悪い。




