須磨子様の恋路を見守り隊・前日
駅近くの落ち着いたカフェ。
本日は珍しく、お嬢4名が同じテーブルに揃っていた。
その真ん中に――美佳がいた。
「……で、なんで私がまた囲まれてるの?」
美佳はアイスカフェラテを抱え、警戒するように4人を見回した。
「美佳様、どうか驚かないでくださいませ」
「実は……大事なお話がありまして」
「須磨子様が遊園地へ行かれると伺いましたの」
「しかも桐生様と“お二人きり”で……!」
4人の令嬢が一斉に赤くなる。
美佳は困惑しつつストローを咥えた。
「うん、知ってるけど? それが?」
令嬢たちは顔を寄せ合い、声を潜める。
「その……最近、社交界で妙な噂が流れているのです」
「“不審な殿方”が、あるご令嬢をつけ回している、と」
「場所も時期も曖昧ですが……特徴が、どうにも……」
「須磨子様に執着していた、あの……九条院家の坊ちゃまと一致しておりまして……」
美佳はストローを噛んで固まった。
(うわ……そういう危なさか……!
そりゃ護衛つけたくもなるわ……!)
「で、私にどうしろっていうの?」
令嬢たちは深く頭を下げた。
「美佳様! どうか須磨子様の護衛を!」
「遊園地は人が多く、身を隠しやすいのです……!」
「九条院坊ちゃまが本当に動いていたら……」
「桐生様おひとりでは、恋で死にますわ!!」
「そこ! そこは心配するところ違うよね!?」
美佳は頭を抱えつつも、令嬢たちの真剣な目を見て息を整えた。
「……つまり、私はすまっちのデートを影から見守る“護衛係”ってわけだね?」
「はい……!」
「もし九条院が近づいた場合は、どうかお止めくださいますよう……!」
(いや無茶ぶりじゃん!!
でも……すまっちが狙われてるなら放っとけないし……)
美佳は息を大きく吸い、テーブルに手を置いた。
「――分かった。引き受けるよ」
令嬢4人の顔がぱっと輝く。
「まぁ……!」
「美佳様……!」
「護衛隊長……!」
「ついていきます!!」
「いやついてくんの!? 隊列組むのおかしいって!!」
美佳は苦笑しながらも、心の中で強く頷いた。
(すまっちの幸福に泥を塗るやつなんて、絶対許さない)
「――よし。護衛隊長、美佳。任務開始だわ」
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◆当日:観覧車の陰で ― “裏親衛隊”の張り込み
遊園地のどこかで──
須磨子と桐生が気付かぬまま、ひっそりと張り込む四人の影があった。
お嬢方、通称 “裏親衛隊” である。
「……ねぇ、今の視線、感じました?」
「ええ。わたくしたちを見ていたというより……須磨子様を、ですね」
ひやりと空気が走る。
最年少のお嬢が口を押さえて言った。
「でも……わたくし、思い出してしまいましたの」
「え? なにを?」
「例の“じゃじゃ馬事件”ですわ。
須磨子様をそう呼んで、西園寺夫人にこてんぱんにされた殿方たち……」
「……あぁ。社交界の黒歴史ですわね」
少し沈黙。
ひとりが静かに続けた。
「でも──今回の“視線”の主は、あのとき叱られた殿方のひとり……ではなくて?」
「えっ、でもあの方……」
「そうですの。
須磨子様に振り返っていただけなかった腹いせに、逆恨みをしている──
そういう噂がありますのよ。
……本当に気持ち悪いですわ」
「逆恨み……?
自分の非礼が招いた結果でしょうに……!」
「ええ。でも“自分は悪くない”と思い込む殿方は多いものですわ。
ましてや、少し容姿が整っていて自意識過剰なタイプなら……」
お嬢方は一斉にため息をつく。
「須磨子様の気品を理解できない殿方なんて、最初から相手にならないのに……」
「それなのに、あんな風に“視線”を向けるだなんて……」
「……キモいですわ。」
そのひと言で、全員の感情が一致した。
少し離れた場所で、美佳が腕を組んでいた。
(……だよね。
結婚してもないのに“自分の女扱い”とか、どんな勘違いだよ……キモ……)
美佳は深い息をひとつ吐き、桐生のほうへ視線を向けた。
(――護衛隊長としての出番、ありそうだな)




