視線
アイスクリームを食べ終え、
須磨子がそっと手を拭きながら言った。
「桐生様……次は、どちらへ参ります?」
「……観覧車はいかがでしょうか」
「まぁ……とても素敵ですわ!」
須磨子の微笑みに、桐生の胸がわずかに熱を帯びる。
ふたりは並んで、ゆっくりと観覧車方向へ歩き出した。
――そのときだった。
背中に、ざり、と爪で撫でられたような悪意が触れた。
(……今のは……?)
桐生は反射的に振り返る。
夕暮れの遊園地。
人の流れの中で、ひとりだけ動かず立つ男がいた。
年齢は自分とあまり変わらない。
整った顔立ちをしているが、表情が貼り付いたように無機質。
だが何より――
目の奥に、冷たい棘のような光。
(……誰だ?)
桐生の背筋がじわりと粟立つ。
男はこちらを見ている。
誰かを探している目ではない。
標的を決めて観察する目だ。
ただし、視線は須磨子に向けられていない。
(……俺に……?)
その理由は分からない。
だが、好意ではないことだけははっきりしていた。
「桐生様? どうかなさいまして?」
須磨子が不思議そうに見上げる。
桐生は彼女を不安にさせないよう、柔らかく微笑んだ。
「いえ。少し、人混みを確認しただけです」
「まぁ……観覧車、混んでおりますかしら?」
「――大丈夫です。行きましょう」
須磨子の袖がふわりと揺れ、
ふたりは観覧車の入口へと向かう。
しかし桐生は、歩きながらも気づいていた。
先ほどの男が、無言のままゆっくりと視線を追ってくる気配を。
須磨子は甘い期待で胸を高鳴らせている。
桐生はその幸福を壊したくなかった。
だから、そっと手を差し出す。
「はぐれないように……手を」
「……はい」
須磨子が小さく握り返した瞬間だけ、
世界は甘く優しく包まれた。
――だがその背後に、
冷たい影がぴたりと付きまとっていた。




