桐生、ボートでようやく見せ場が来た(すぐ消える)
湖面がゆるやかに揺れる、遊園地のスワンボート乗り場。
須磨子が案内板を見上げる。
「まぁ……“水上散策”ができますのね。素敵ですわ」
桐生
(これは……ようやく俺の見せ場では……!?
機械系アトラクションはHPが死に、
お化け屋敷は尊厳が死に、
次こそは……!)
◆ボート乗船
スタッフに誘導され、ぎこちなくスワンボートへ。
須磨子は裾を丁寧に整えつつ乗り込む。
桐生はその手を軽く支え──
「お気をつけて」
須磨子
「ありがとうございます、桐生様」
(っ!!
いい……今の“ありがとうございます”は……
精神が浄化されるやつ……!!
HPが30くらい回復した……!!)
◆桐生、まともに漕ぐとカッコいい
湖に出ると、風が気持ちよく吹く。
桐生がオールを握って漕ぎ出すと、
上腕の筋肉がわずかに締まり、シャツの下で影が動く。
須磨子
「桐生様……とても、お上手なのですのね」
「いえ……学生時代に少し、経験が」
(よし!言った!自然に言った!!
今だけは……今だけはイケナイツ!!
騎士としての尊厳が戻ってきた!!)
須磨子は湖面に映る青空を見つめ、
風で髪が揺れ、
その姿がまた桐生のHPを回復させる。
(……美しい……
いや、見惚れるな俺!!
オール操作に集中しろ!!)
◆しかし須磨子様、オールを持つと強い
須磨子
「桐生様。わたくしも少し……漕いでみてもよろしいでしょうか?」
(!!
あ、あぶない……!須磨子様の腕力未知数!!
でも……断れない!!)
「少しだけ、こちらを……」
須磨子がオールを握る。
──握った瞬間。
筋、入った。
桐生
(……あれ?
思ったより……めっちゃ力強くない……?)
須磨子
「こうですのね……? せいっ」
ザッ!!!!
ボートが思った5倍前に進む。
桐生
「えっ!? 須磨子様!?!?」
須磨子
「あら……少し強かったでしょうか……?」
(“少し”じゃねぇ!!!
いま完全にドラゴンボート級の推進力だったわ!!!)
須磨子様、二回目。
「えいっ」
ザパァァーーッ!!!
ボート、隣のカップルのスワンを追い越す。
カップル
「えっ!?なんかすごいの来た!!」
桐生
(やめてぇ!!俺の見せ場が秒で消えるぅぅ!!!)
◆須磨子様、完全にエンジン
須磨子
「楽しいですわ! 桐生様! もっと参りますわよ!」
(参るのは俺なんだよぉぉぉ!!!
本当に“参る”のは俺なんだよぉぉぉ!!!)
桐生は慌ててオールを押さえ、
「す、須磨子様! お怪我をされたら大変ですので……
わたくしが……漕ぎます。どうかお任せを」
須磨子
「まぁ……桐生様……」
ふわり、と柔らかい笑み。
「では……お願いしてもよろしいでしょうか?」
桐生
(“お願いしてもよろしいでしょうか”の破壊力よ……
HPが90まで回復した……
やっと……やっと騎士の顔ができる……!)
◆桐生、ラストだけはちゃんと決める
ゆっくりと湖を一周し、
振り返ると須磨子が風に髪をなびかせて座っている。
その姿だけで、胸が焼けるように熱くなる。
須磨子
「桐生様。とても……素敵なひとときでしたわ」
桐生
「わたくしも……須磨子様とご一緒できて……光栄です」
(あっやばい今の言い方は我ながら完璧……
今日だけはHP100行ったかもしれん……!)
──と思った瞬間。
須磨子
「次はまたわたくしにも漕がせてくださいませね♪」
桐生
「っ……!?」
HP
100 → 7
(だめだ……やっぱ須磨子様強い……
俺の見せ場、儚い……)




